バラ曲線とは
「
バラ曲線(Rose curve)」というのは、極座標の方程式r=a sin(kθ) 又は r=a cos(kθ)によって表される曲線で、バラに似た形となっているため、このように名付けられている。「
正葉線」や「
正葉曲線」とも呼ばれる。1720年代にこの曲線を研究したイタリアの数学者グイド・グランディ(Guido Grandi)は、「
ロドネア曲線(rhodonea curve)」と名付けており
5、「
グランディのバラ(rose of Grandi.)」とも呼ばれる。
バラ曲線の極座標表示と媒介変数表示は、以下の通りとなる。
r=a cos(kθ)
x=r cosθ=a cos(kθ) cosθ
y=r sinθ=a cos(kθ) sinθ
因みに、r=a sin(kθ) (=a cos(n(θ-π/2k)) で表されるバラ曲線は、r = a cos(kθ) を反時計回りにπ/2kだけ回転して得られるバラ曲線となる。
全てのバラ曲線は、一定の対称性と周期性を有している。
具体的には、バラ曲線は、以下のような図形となる。aは振幅を表しているので、以下ではa=1の場合を考える。
5 Rhodoneaは、ギリシャ語のバラを意味するrhódon、ròsaに由来している。
これらの図が示しているように、kが自然数(≠0)の場合、以下のことがいえる。
・バラ曲線(の花弁(ループ)のピーク)は円r=a に内接している。
・kが偶数(≠0)の場合、バラ曲線は2k個の花弁で構成され、これらの花弁のピークを結ぶ線分は正2k多角形を形成する。
・kが奇数の場合、バラ曲線はk個の花弁で構成され、これらの花弁のピークを結ぶ線分は正k多角形を形成する。
・バラ曲線の花弁は重ならない(逆に、kが整数(≠0)でない場合、花弁は重なる)。
・バラ曲線は、kが偶数(≠0)の場合は2(k+1)、kが奇数の場合はk+1の次数の代数曲線で表される。
・k=1 の時は円となり、k=2の時は4枚の花弁があって「
クアドリフォリウム(quadrifolium)」と呼ばれ、k=3の時は3枚の花弁があって「
トリフォリウム(trifolium)」と呼ばれ、k=4の時は8枚の花弁があって「
オクタフォリウム(octafolium)」と呼ばれ、k=5の時は5枚の花弁があって「
ペンタフォリウム(pentafolium)」と呼ばれる。
・バラ曲線で囲まれる部分の総面積及びそれぞれの花弁の面積は、以下の通りとなる。
6 cos(-kθ)=cos(kθ) なので、kが整数(≠0)の場合ということができる。
kが有理数で既約分数としてk=n/d と表される場合
以下の図が例示しているように、以下のことがいえる。
・nとdがともに奇数の場合、花弁の数はn個
・そうでない場合、花弁の数は2n個
・k=1/2 の場合、ドイツの画家で彫刻家のアルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)がいくつかの曲線類を提起していることに因んで、「
デューラーの葉型曲線(Dürer folium)」と呼ばれる。これは角度を3等分するために使用できる曲線であるトリセクトリックでもある。
・k=1/3 の場合、 角度を三等分するために使用できる三等分曲線の特性を持つ「
リマソン・トリセクトリック(limaçon trisectrix)」と呼ばれる。
kが無理数の場合
この場合、バラ曲線は閉曲線とはならずに、無数の花弁を有し、決して完成せずに、円の領域を埋めていく形になる。例えば、以下の通りとなる。
バラ曲線の応用
バラ曲線は、その数学的特性及び美しい形状から、様々な分野で利用されている。
建築
建物のファサードや内装の装飾等にバラ曲線(あるいはそれに類似した曲線)が使用される
7。
例えば、アントニ・ガウディは自然の形状や数学的な曲線を取り入れたデザインを多用しているが、サグラダ・ファミリアのアーチや装飾にはバラ曲線の影響が見られ、カサ・バトリョは、波打つような曲線が特徴的で、バラ曲線を含む様々な曲線が、建物全体に美しい動きを与えているようだ。
その他にも、バラ曲線そのものではないが、バラ曲線の影響が見られる建物が数多くあると言われている。
7 教会や大聖堂のステンドグラス等で見られるバラ窓は、必ずしもバラ曲線そのものではなく、より複雑な幾何学模様が使用されているようだ。
装飾・デザイン:
バラ曲線は、その対称性と美しさから、エレガントで芸術的な空間を演出するために、各種のデザインの装飾要素として使用されている。
具体的には、家具等のインテリア、高級時計の文字盤や針のデザイン、ペンダントやイアリング等のジュエリーのデザイン等での使用が挙げられる。
会社のロゴ:
バラ曲線は、視覚的な訴求力が高いことから、会社のブランドイメージを向上させるために、会社のロゴにも(必ずしもバラ曲線そのものではないが)取り入れられているようだ。
エンジニアリング:
バラ曲線の数学的特性は、機械工学やロボティクスの分野で利用されることがある。例えば、特定の運動パターンを設計する際に、バラ曲線の方程式が役立つことがあるようだ。
芸術・アート:
バラ曲線は、パラメータを微妙に変化させることで、各種の魅力的な模様を描くことができることから、各種のアート作品やデザイン、グラフィックの分野で利用され、作品に独自の美しさを加えることに役立っている。
数学教育:
バラ曲線は、数学教育において、学生が視覚的に理解しやすい教材として、極座標や周期関数の理解を深めるために使用されている。バラ曲線は、データの視覚化において効果的で、周期的なデータやパターンを視覚的に表現する際に使用される。
自然界のパターンや現象のモデリング:
バラ曲線は、花弁の配置や波の形状等の自然界のパターンや現象をモデル化するために使用される。
最後に
以上、今回は、「リサージュ曲線」や「バラ曲線」と呼ばれるものについて、報告してきた。
これらの曲線については、デザインやアートの世界等で実際に目に触れる機会も多いのではないだろうか。これらの曲線の背景には、実は今回紹介したような数学的な特性があるということを認識していただいて、少しは数学に対する興味・関心を深めていただければと思っている。
次回の研究員の眼では、「カッシーニの卵形線」、「レムニスケート」、「デカルトの正葉線」といった図形について報告する。