本稿では、「産業集積」に注目し、探索的空間解析の手法を用いて、「情報通信業」・「金融業,保険業」・「学術研究,専門・技術サービス業」の事業所立地について、エリア別特色やその経年変化を確認した。
分析の結果、産業集積が起こり、オフィス需要が底堅いと考えられる「ホットスポット」に分類された地区(町丁目・2021年)は、「情報通信業」で289箇所(2012年対比+3)、「金融業,保険業」で96箇所(同▲32)、「学術研究,専門・技術サービス業」で255箇所(同+27)であった。
先行研究
10では、産業集積のメリットとして、(1)「労働市場の形成
11」、(2)「情報のスピルオーバー効果
12」、(3)「投入物調達のしやすさ
13」の3点を指摘している。技術の進歩が速い「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」では、「労働市場の形成」や「情報のスピルオーバー効果」のメリットから産業集積が特に進んだと考えられる。
今後も、優秀な人材確保や技術のキャッチアップ等の観点から、産業集積は進み、それに伴う新しい企業の誕生(進出)等が期待される。上記の3業種において、「ホットスポット」の占める割合が50%以上のエリアは、「丸の内・大手町」・「麹町・番町」・「京橋・八重洲・日本橋」・「銀座」・「新橋・虎ノ門」・「西新宿」・「東池袋・南池袋」の7エリアであった(次頁 図表-15 「評価☆☆☆」)。複数の業種で産業集積が進んでいるエリアは、オフィス需要が強く環境変化に対する強靭性の高いエリアと評価できるだろう。
また、「情報通信業」と「学術研究,専門・技術サービス業」において、「ホットスポット」の占める割合が50%以上のエリアは、「内神田・鍛冶町」・「飯田橋・九段」・「築地・新富・茅場町」・「赤坂・青山」・「新宿・歌舞伎町」・「渋谷・道玄坂」・「桜丘・南平台」・「恵比寿・広尾」・「池袋・西池袋」であった(次頁 図表-15「評価☆☆」)。特に、「桜丘・南平台」・「恵比寿・広尾」・「池袋・西池袋」は2012年から2021年にかけて、「ホットスポット」の占める割合が10%以上増加しており、オフィス需要が高まりをみせている。
今後も、東京都区部では、多くの大規模開発が計画されている。三幸エステートの調査によれば、東京23区の新規供給予定面積(2024 年から2026年の合計)は、約58万坪に達する。新規供給予定面積を区別にみると、「港区(46%)」が最も多く、次いで「中央区(23%)」、「千代田区(8%)」、「品川区・大田区(6%)」、「渋谷区(5%)」の順に多い(図表-13)。
大規模オフィスの新規供給が増えるなか、コロナ禍前は1%程度と低位であった空室率は上昇し、エリア間の格差も拡大している(図表-14)。
不動産事業者や不動産運用者は、各エリアの特色を踏まえた事業戦略や不動産マネジメントが一層求められることになりそうだ。