介護の「生産性向上」を巡る論点と今後の展望-議論が噛み合わない原因は?現場の業務見直し努力が重要

2024年05月23日

(三原 岳) 医療

■要旨

介護分野で近年、「生産性向上」という言葉が盛んに使われている。今後の人口減少や高齢化の進展、介護現場における深刻な人材不足を踏まえ、現場の職場環境の改善とか、少ない人員でも現場が回る対応策の必要性が意識されている。

その一例として、2024年度介護報酬改定では、施設系サービスなどに対し、生産性向上のための委員会を設置することが運営基準に追加された。さらに、センサーなどを導入する事業所を対象にした加算(ボーナス)なども創設された。

しかし、「生産性」という言葉が効率性や採算性を想起させるためか、「生産性は介護に合わない」といった抵抗感を示す介護業界の関係者は少なくない。そこで、本稿では近年の政策動向を取り上げた上で、噛み合わない議論の背景を考察するため、介護における「生産性」とは何か、そもそも論から紐解く。その上で、人材不足対策としての側面だけでなく、現場で働く介護従事者の意欲や士気を高める重要性とか、現場の積み上げによる業務見直しの努力が必要な点を強調する。

一方、介護業界では基準・報酬で人員配置が厳格に定められているため、人材不足への対策としては、現場の積み上げだけでは限界がある点も指摘。最終的に「介護の質の向上・確保」「人員基準の見直し」という二律背反が大きなテーマになる可能性を論じる。

■目次

1――はじめに~介護の「生産性向上」を巡る論点と今後の展望~
2――介護現場における「生産性向上」の現状
  1|生産性向上が流行語に
  2|テクノロジーの活用は不十分
3――介護分野で「生産性向上」が浮上した経緯
  1|2018年の骨太方針、未来投資戦略
  2|2019年のプランと目標
  3|介護分野の生産性向上ガイドライン
  4|職場の環境改善、文書量削減の方針
  5|首相官邸の会議でも生産性向上策が議論
4――制度改正、報酬改定における生産性向上の動き
  1|3年に一度の制度改正では自治体に相談窓口設置
  2|報酬改定でも加算創設
  3|人員配置基準の特例的な柔軟化
5――介護で生産性向上が語られる背景と異論
  1|恒常的な人材不足
  2|将来的な人材不足
  3|生産性という言葉に対する異論
  4|現場からの意見に対する私見
6――生産性向上の議論が噛み合わない背景(1)~参照点の違い~
7――生産性向上の議論が噛み合わない背景(2)~生産性という言葉の意味~
  1|厚生労働省の説明
  2|経済学、労働経済学的な生産性の説明
  3|介護業界の「投入」「産出」とは何か
  4|求められる視座
8――今後の論点(1)~現場への期待~
9――今後の論点(2)~自治体への期待~
10――今後の論点(3)~国への注文~
  1|人員基準の引き下げを巡る二律背反への対応
  2|事業所の連携強化を促す制度改正
  3|介護現場のデジタル化、DX推進
  4|報酬の簡素化
  5|報酬改定の6月施行への全面移行
11――おわりに

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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