2024・2025年度経済見通し(24年5月)

2024年05月17日

(斎藤 太郎) 日本経済

2.実質成長率は2024年度0.8%、2025年度1.1%を予想

(2024年4-6月期は自動車の挽回生産などからプラス成長へ)
2024年1-3月期は、物価高による下押しが続くもとで、不正問題発覚による自動車の生産・出荷停止の影響で消費、設備、輸出が落ち込み、前期比年率▲2.0%のマイナス成長となったが、4-6月期は前期比年率2.3%のプラス成長となることが予想される。
2024年1-3月期の自動車生産は前期比▲17.3%の大幅減産となったが、月次では1月(前月比▲15.9%)、2月(同▲8.1%)と急速に落ち込んだ後、工場の稼働再開を受けて3月には前月比9.9%の高い伸びとなった。輸送機械(自動車が8割以上を占める)の生産計画は4月が前月比6.1%、5月が同10.5%の高い伸びとなっている。すでに公表されている2024年4月の自動車販売台数は、生産の持ち直しを反映し、前月比9.2%(当研究所による季節調整値)と増加に転じている。

2024年4-6月期は1-3月期とは逆に自動車の挽回生産が消費、設備、輸出の押し上げ要因となることが見込まれる。

2023年11月に策定された経済対策に盛り込まれた所得・住民税減税は2024年6月に実施されることが予定されており、7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率3.0%の高成長となることが予想される。減税の効果は一時的なものにとどまるが、10-12月期以降は実質賃金上昇率のプラス転化に伴う実質可処分所得の持続的な増加が消費を下支えする。また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。
実質GDP成長率は2024年度が0.8%、2025年度が1.1%と予想する。2023年度の実質GDP成長率1.2%となったが、内需寄与度が▲0.2%と3年ぶりにマイナスとなる一方、国内需要の弱さを背景に輸入が前年比▲3.3%の減少となったことから、外需寄与度が1.5%と成長率を大きく押し上げた。2024、2025年度は民間消費、設備投資を中心に国内需要が堅調に推移する一方、輸入が増加に転じることから外需による押し上げ幅は縮小する。先行きは内需中心の成長が続くことが予想される。
(可処分所得に左右される個人消費)
家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で貯蓄率は低下傾向が続き、2023年度入り後はほぼゼロ%(2023年4-6月期:0.5%、7-9月期:▲0.1%、10-12月期:▲0.3%)となっている。
家計貯蓄率がコロナ禍前の水準まで低下し、過剰貯蓄による押し上げが期待できない中、今後の消費を左右するのは実質可処分所得の動向である。足もとの実質可処分所得はコロナ禍前の水準を下回っている。先行きについては、物価高が引き続き実質所得を抑制するが、賃上げの進展に加え、所得・住民税減税が押し上げ要因となることが見込まれる。減税の効果は一時的だが、2024年度後半以降は、物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加を主因として実質可処分所得は底堅く推移するだろう。

なお、減税のうち消費に回る割合は2~3割程度と想定しているため、家計貯蓄率は一時的に大きく上昇するが、減税効果が剥落した後はほぼゼロ%まで低下することが予想される。

民間消費は2023年度に前年比▲0.6%と3年ぶりに減少したが、2024年度に同0.5%と増加に転じた後、2025年度は同1.0%と伸びが高まると予想する。2024年度は実質雇用者報酬の伸びは小幅にとどまるが、所得・住民税減税が可処分所得を押し上げる。2025年度は減税効果が剥落する一方で、実質雇用者報酬の伸びが高まることが可処分所得の増加に寄与するだろう。
(企業の設備投資意欲は強い)
2023年度の設備投資は前年比0.4%の低い伸びにとどまったが、2024年度が前年比2.4%、2025年度が同2.9%と堅調な推移が続くことが予想される。

日銀短観2024年3月調査では、2023年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が2023年12月調査から▲1.9%下方修正されたものの、前年度比10.2%の高い伸びとなった。2024年度の当初計画は前年比4.5%となり、2023年度当初計画(前年度比4.4%)と同程度の伸びとなった。

GDP統計の設備投資は人手不足に伴う供給制約の影響もあり伸び悩んでいるが、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応やテレワーク関連投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に、基調としては回復の動きが続いていると考えられる。

中長期的な設備投資の動向に大きな影響を及ぼすのは企業の期待成長率である。期待成長率が長期にわたり低迷してきた背景には、多くの企業経営者が人口減少下で国内市場の縮小が不可避と考えてきたことがあると考えられる。

内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2023年度)」によれば、企業の今後3年間の実質経済成長率の見通しは1.3%と小幅ながら2年連続で前年から伸びが高まった。また、業界需要の実質成長率見通しは1999年度から18年連続で実質経済成長率の見通しを下回っていたが、2017年度以降は実質経済成長率を上回り、2023年度には1.6%となった。業界需要の成長期待が上向いてきたことは、設備投資の先行きを見る上で明るい材料である。さらに、設備投資の見通しは2023年度には6.8%(今後3年間の年度平均)と1990年度(7.9%)以来、33年ぶりの高水準となった。人手不足による供給制約が工事の進捗を遅らせている面はあるものの、企業の設備投資意欲自体は非常に強いことが伺える。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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