マンション価格は上昇継続。ホテル市況はコロナ禍前に近づく-不動産クォータリー・レビュー2023年第2四半期

2023年08月09日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第1四半期は前年比でシングルタイプが+1.7%、コンパクトタイプが+1.1%、ファミリータイプが+5.0%となった(図表-11)。
総務省によると、東京23区の転入超過数(2023年1-6月累計)は+47,783人(前年同期比+77%、2019年同期比▲10%)となった(図表-12)。年後半も転入超過のトレンドを維持できるかどうか、注目される。
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費が好調な百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2023年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+7.5%、コンビニエンスストアが+4.5%、スーパーが+2.9%となった(図表-13)。6月単月では、百貨店が+7.2%(16カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+3.2%(16カ月連続プラス)、スーパーが+2.9%(9カ月連続プラス)となっている。
ホテル市場は、日本人の宿泊需要にやや頭打ち感がみられるものの、インバウンドの宿泊需要が順調な回復を示している。宿泊旅行統計調査によると、2023年4-6月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲4.6%の水準まで回復し、このうち日本人が▲3.4%、外国人が▲9.4%となった(図表-14)。また、STR社によると、6月のホテルRevPARは2019年対比で全国が+5.3%、東京が+14.3%、大阪が▲5.6%となった。
物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受けて空室率が高止まりしている。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2023年6月末)は8.2%(前期比±0%)となった(図表-15)。今期は新規需要が過去最大の22.5万坪を記録したものの、新規供給(24.4万坪)も多く、前期比で横ばいとなった。既存物件の空室消化も進んでいるものの、空室が多いなかで、テナントは引き続き選別的となっており、物件やエリアの2極化が進んでいるとのことである。近畿圏の空室率は3.2%(前期比▲1.4%)に低下した。

また、一五不動産情報サービスによると、2023年4月の東京圏の募集賃料は4,600円/月坪(前期比+2.0%)に上昇した。

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2023年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は3月末比+4.3%となり、四半期ベースでは8期ぶりの上昇となった。セクター別では、オフィスが+5.7%、住宅が+7.6%、商業・物流等が+2.2%となり、主に住宅セクターが市場の上昇を牽引した(図表-16)。6月末時点のバリュエーションは、純資産11.6兆円に保有物件の含み益5.3兆円を加えた16.9兆円に対して時価総額は15.7兆円でNAV倍率4は0.93倍、分配金利回りは4.1%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.7%となっている。
J-REITによる第2四半期の物件取得額は2,398億円(前年同期比+114.9%)、上期累計(1-6月)では6,072億円(同+29%)となり、大きく落ち込んだ昨年から大幅に増加した(図表-17)。アセットタイプ別では、オフィスビル(35%)・物流施設(32%)・住宅(16%)・商業施設(10%)・ホテル(6%)・底地ほか(1%)となり、投資口価格の上昇を背景に物流施設を中心に大型物件の取得がみられた。
今年上期のJ-REIT市場を振り返ると(図表-18)、上期前半は金利上昇に対する警戒感から下値を探る展開が続いたものの、4月以降、植田日銀新総裁が現在の金融政策を当面維持するとの見方から上昇に転じ、昨年末の水準を概ね回復した。もっとも、海外資金の大量流入を受けてバブル崩壊後33年ぶりの高値更新に沸く株式市場と比べて足どりは重く、TOPIXの上昇(+21.0%)に対して大幅にアンダーパフォームする結果となった。

続いて、市場規模を確認すると、上場銘柄数は61社から60社に減少、市場時価総額は15.7兆円(昨年末比▲1%)、運用資産額(取得額ベース)は22.3兆円(同+2%)となった。また、業績面では、ホテル収益の回復や不動産売却益の計上などがプラス寄与し、市場全体の1口当たり予想分配金は昨年末比+3%増加、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も不動産価格上昇を反映し+1%増加と堅調であった。一方、デット資金の調達は、金利見通しに対する不透明感から投資法人債の発行について様子見となるなか、発行期間の短縮(期間5.8年)と調達コスト(発行利率0.85%)の上昇がみられた。
 
4 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)