以前の研究員の眼「
分数について(その1)-分数の起源等はどうなっているのか-」(2023.3.28)において、分数の読み方として、中国語や日本語では分母を先に分子を後に読むのに対して、英語では分子を先に分母を後に読んでいる(ドイツ語やフランス語においても同様で、これが世界の主流になっている)、と紹介した。繰り返すと、例えば「2/5」の読み方について、日本語では「5分の2」という読み方をするが、英語では「two fifths」又は「two over five」という読み方をする。
分数(a/b)というのは、その名称が表しているように、基本的には、対象となるものの全体に相当する「分子a」の数をいくつに等しく分けるのかを示す「分母b」の数で割った値、を示している(後に説明する「分数が持つ意味」からすれば、必ずしもこのような考え方だけに基づいているわけではないかもしれないが、それらについてはここでは考慮していない)。その意味では、「分子を主」にして先に読み、「分母を従」にして後に読むという英語の方式は、ある意味で自然な読み方といえるものと考えられる。
我々は、分母や分子という名称に左右されて、どうしても「分母が主」であるかのように感じてしまう(この場合には、分子が分母よりも小さい「真分数」をイメージしているものと思われる)。ただし、よくよく考えてみると、そもそもの分数の考え方の由来ともいえる「対象となるものの全体をいくつに分割するのか」という意味合い(この場合には、むしろ分子が分母よりも大きい「仮分数」をイメージしていることが多いものと思われる)からすれば、全体に相当する「分子を主」と考える方が自然といえることになる。加えて、そもそも、実際の場面においては、分子のaは何らかの単位(重量、距離等)を有する数値であることが多いのに対して、分母のb自体はそうした数値ではないことが多い(もちろん、人数や箱の個数等の意味を有しているかもしれない)ことから、この観点からも「分子が主」という方が適切といえることになると考えられることになる。
なお、
a/b =a÷b
であり、英語では右辺の割り算について「a divided by b」という読み方をしている(因みに左辺の分数についても、先に紹介した2つの方式に加えて、このような読み方もする)が、日本語でもこれを「a割るb」という読み方をしており、分子が先に読まれている。
さらには、日本語の読み方は、上から下の順番に読むのが通常なので、この観点からも分子を先に読む方が日常感覚にフィットしているともいえることになる。分数がわかりにくいことの理由の1つに、このような読み方に対する一種の違和感も関係しているといえるかもしれない。
一方で、中国語や日本語の方式は、分母の数が意味する人数等により焦点が当てられるものになっている。分母のbが全体を表して、分子のaはまさにその一部を表していて、分数のa/bは分子のaが全体のbに占める割合を示していることになる(この場合には、「分母が主」との考え方もできるのかもしれないが、一方でやはりこの場合でも分子の方がより重要な意味合いを有していることから「分子が主」と考えることもできることになる)。
あるいは、「分母の数を分母に持つ単位分数1/b」の「分子の数a」に相当する数を表すような形になっているとも解釈できる。これは、「分母の数を分母に持つ単位分数」が1つの単位の基準として作用する形になるので、「分母が主」になっていると考えられることになる。則ち、算式で示すと
a/b =a×(1/b)
というような感じとなる。
いずれにしても、現在の読み方やそもそもの分母や分子といった名称が広く定着しているので、これを変更するのは至難の業で、却って混乱を招く形になってしまう。しばらくは現在の方式が続いていく形にならざるを得ないということだろう。
(参考)分母や分子に変数xを含む算式や分数が含まれているような場合の読み方
分母や分子に変数xやyを含む算式や分数が含まれている(以下の例の)ような複雑な分数を考える。
(1+2/(x+3))/(4+(5+y)/6)
この分数の英語での読み方については、いくつか考えられるが、例えば以下の通りとなる(左から右へ、上から下への順番に従ったものとなっている)。
One plus two over x plus three divided by four plus five plus y over six
なお、この読み方で表現される分数は、他にも思い浮かべることができるかもしれない。ただし、この問題は日本語でも同じことが起きている。