「
音律」というのは、音階のそれぞれの音を調律する基準であり、音高の相対的な関係の規定のことを言う。楽器の調律では、基準となる特定の音の音高を定め、それから音律に従って他の音の音高を決定する。この音律には、歴史上様々なものが使用されてきており、代表的なものとして、「
平均律(Equal temperament)」、「
純正律(Just intonation)」、「
ピタゴラス音律(Pythagorean tuning)」等がある。
このうちの「
平均律」は、1オクターヴなどの音程を均等な周波数比で分割した音律で、現在の西洋音楽で使用されている「
十二平均律」は、隣り合う音(半音)の周波数比が常に
となる。
なので、音が一つ高くなると、周波数は約1.06倍になることになる
1。これについては、以前の研究員の眼「
「対数」に、もう一度興味・関心を持ってみませんか(その3)-対数はどこで役に立っているのか-」(2021.10.8)で紹介した。この「平均律」は(無理数による)等比数列に基づいているが、各音を表すのに指数表記が使用されることになる。
これに対して、古代ギリシャのピタゴラスが策定した
2とされる「
ピタゴラス音律」は、音階の全ての音と音程を周波数比が3:2の純正な完全五度
3に基づいて導出する。周波数を、基準音から3/2倍(これは弦の長さを2/3倍にすることに相当)にし、2倍を超えたら半分にする(1オクターヴ下げる)ということを繰り返して、音階を作成する
4。「ピタゴラス音律」は、初期ルネサンスまでの西洋音楽の標準的な音律であり、また中国や日本の伝統音楽の音律も同様の原理に基づく「
三分損益法」と呼ばれる方法に基づいている。「ピタゴラス音律」も(3/2等の有理数の)等比数列に基づいているが、各音を表すのには分数表記が使用されることになる。
一方で、「
純正律」は、周波数の比が単純な整数比である純正音程のみを用いて規定される音律で、各音の関係は分数で表される形になる。
これら3つの音律によるドレミファソラシドの周波数は、以下の図表の通りとなる。
この図表における「ピタゴラス音律」の周波数については、以下のように設定される。
C: 1(基準音)
G: 3/2(Cの完全五度上)
D: 3/2×3/2×1/2= 9/8(Gの完全五度上の1オクターヴ下)
A: 9/8×3/2= 27/16(Dの完全五度上)
E: 27/16×3/2×1/2=81/64(Aの完全五度上の1オクターヴ下)
B: 81/64×3/2= 243/128(Eの完全五度上)
ここで、Fについては、Fの完全五度上がCとなるように設定され、
F:2÷3/2=4/3
となる。因みに、上記と同じ設定手法に従って得られる音は、F#と表される。
F#:243/128×3/2×1/2=729/512(Bの完全五度上の1オクターヴ下)