さて、非循環小数の中にも、特色のある種類の数が存在している。
「
正規数(normal number)」というのは、無限小数表示において数字列が一様に分布しており、数字列が現れる頻度に偏りがないという性質を持つ実数、のことを指している。この概念は、一般的なN進法の場合にも定義されるが、以下では基本的には十進法の場合を考えることとする。
有理数(有限小数や循環小数)は、正規数ではない。有限小数はそもそも無限小数ではないが、仮に、有限桁以降に「0」(あるいは「9」)が循環すると考えたとしても、数字の現れ方は一様にはならないことになる。また、循環小数のうちで、0~9の数字が全て循環する場合(例えば、123456789/9999999999(=13717421/1111111111)= 0.1234567890123456789…)には、0~9までの数字が同じ確率(1/10)で現れてくることになるが、これらは正規数ではない。正規数の定義は、0~9の数字だけでなく、10以上の2桁以上の桁を有する任意の数字列の分布も一様でなければならない。従って、正規数は無理数で非循環小数となる。
なお、「
正規(normal)」より弱い概念として「
単正規(simply normal)」という概念があるようで、これは十進法の場合、まさに0~9までの数字が同じ確率(1/10)で現れてくる場合を指している(この定義によれば、先の有理数123456789/9999999999(=13717421/1111111111)=0.1234567890123456789… は、「単正規」ということになる)。これに対して、通常の正規は「
絶対正規(absolutely normal)」と呼ばれる
2。
その定義から、正規数においては、「任意に与えられたn桁の数字列が現れる確率は1/10
n」(最初のL桁までに、任意に与えられたn桁の数字列が現れる確率が(Lを無限に大きくしていった時に)1/10
nに収束する)ということになる。なお、正規列(正規数の数列)においては、全ての有限数列が現れるが、逆に全ての有限数列が現れる数列が正規であるとは限らない。
正規数の概念は、1909年に、フランスの数学者エミール・ボレル(Émile Borel)(1871-1956)によって導入された。彼は「殆ど全ての」実数が正規数であることを証明した。
また、正規性の定義から明らかなように、正規列に対して、有限個の文字を、加えたり、取り除いたり、変更したり、といった操作を行っても、正規列のままである。従って、正規数の定義において、小数点より前の部分を含めるか否かは本質的ではなく、その意味で「
正規小数」という言い方で1未満の数を考えることが多い。
なお、任意の正の数は二つの正規数の積となることが知られているようだ。
非正規数の集合は、非可算無限集合である。例えば、1 を含まない実数は明らかに非正規数であるが、そのような数は非可算無限個存在する。
2 なお、この定義に対して、ある特定の基数に対して「正規」である場合を「単正規(simply normal)」と呼び、2以上の全ての基数に対して「正規」となる場合を「絶対正規(absolutely normal)」と呼ぶこともある。