上記で述べたように、フーリエによる最初の動機は熱伝導方程式を解くことであった。ただし、フーリエが考え出したテクニックから発展してきた、フーリエ級数やフーリエ変換(以下、フーリエ逆変換を含む)に代表される「
フーリエ解析4」は、複雑な関数を周波数成分に分解してより簡単に記述することを可能にすることから、電気工学、振動工学、音響学、光学、信号処理、量子力学などの現代科学の幅広い分野、さらには経済学等にも応用されてきている。
具体的に、いくつかの例を挙げると、以下の通りである。
まずは、
前回の研究員の眼で説明したように、「
音声処理」においては、音声信号を送信する場合に、変調という仕組みで音声信号を表現して送信するが、受信機でこれらの電波を音声信号に変える時、また、雑音を消すための「
ノイズ除去」において、フーリエ解析が使用される。
さらに、画像等のデジタルデータの「
圧縮技術」にもフーリエ解析が使用される。
また、「
微分方程式」というのは、各種の要素(変数)の結果として定まる関数Fの微分係数(変化率)dF/dtの間の関係式を示すものであるが、多くの世の中の現象(波動や熱伝導等)が微分方程式
5で表現される。この微分方程式を解いて、Fを求めることによって、こうした現象を解明することができることになる。フーリエ級数展開やフーリエ変換は、これらの微分方程式を解く上で、重要な役割を果たしている。例えば、物理学で現れるような微分方程式では、フーリエ級数展開を用いることで、微分方程式を代数方程式(我々が一般的に見かける、多項式を等号で結んだ形で表される方程式)に変換することで単純化をすることができることになる。
医療の分野では、「CT(computed tomography:コンピューター断層撮影)」や「
MRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)」の画像データ処理において、フーリエ解析が使用される。
「
サンプリング理論」として知られる、自然界にある連続したアナログ情報(信号)をコンピューターが扱えるデジタル情報(信号)に変換するときに、どの程度の間隔でサンプリングすればよいかを定量的に示す「サンプリング定理」等の基礎的な理論があるが、このサンプリング理論とフーリエ変換を用いることで、CT、MRIなどの画像処理がコンピューターで行われていくことになる。
なお、有名な「DNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造」は、X線解析とフーリエ変換によって発見されているし、宇宙探査機が撮影する天体の画像等にも、フーリエ変換を用いた信号処理が使用されている。
4 「フーリエ変換」も万能ではなく、フーリエ変換が可能な関数の条件がある。そこで、「ラプラス変換」という手法も使用されるが、今回の研究員の眼のシリーズでは、ラプラス変換については説明しない。また、「フーリエ解析」における重要な手法である「離散フーリエ変換」や「高速フーリエ変換」についても触れていない。
5 変数が1つの微分方程式が「常微分方程式」であり、複数の変数で表されるのが「偏微分方程式」となる。代表的なものとして、波動方程式、熱伝導方程式、ラプラス方程式などが挙げられる。