「C」は「複素数」を表しているが、これは英語の「Complex number」から来ている。黒板文字では「ℂ」と表される。米国の数学者ネイサン・ジェイコブソン(Nathan Jacobson)が1939年に最初に使用したようだ。
「複素数」というのは、「2つの実数 a, b と虚数単位
を用いて、z = a + bi と表すことのできる数」のことをいう。ここで「i」は虚数単位とよばれるもので、二乗すると-1になる数を表している。則ち
あるいは「i
2=-1」となる。この「i」という文字が最初に使用されたのは、これまで何度も紹介してきた米国の数学者、数学史家のフロリアン・カジョリ(Florian Cajori)によれば、レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)による、1777年に提示され、1794年に公表された論文においてであったようだ。
なお、b=0 の場合が実数であり、b ≠ 0 の場合には、実数でない複素数である「虚数」(imaginary number)となる。
「虚数」を発見したのは、16世紀のイタリアの数学者ジェロラモ・カルダーノ(Gerolamo Cardano)であるとされており、彼が発見した三次方程式の解の公式の中で、「虚数」の概念が導入されたようだ。その後、フランスの著名な哲学者・数学者であるルネ・デカルト(René Descartes)がその著書において、フランス語で「nombre imaginaire」(想像上の数)と名付けたことで、これが英語の「imaginary number」(虚数)の語源になった。これからわかるように、当時は0 や負の数ですら架空の仮想的なものと考えられていた時代で、ましてや「虚数」は否定的に捉えられていたようだ。
ドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauß)は、複素数を平面上に表現する「複素数平面」(あるいは「複素平面」や「ガウス平面」とも呼ばれる)の概念を構築しているが、これについても「C」で表される。複素数平面上では、実軸を除いた部分が虚数全体となる。
なお、ガウスは1831年に発表した論文で、複素数を ドイツ語で「Komplexe Zahl」と表して、初めて複素数に名前を付けている。有名なガウスの「代数学の基本定理」は、「複素数を係数とする全てのn次方程式は、複素数の範囲でn個の解を有する」というものである。
因みに、日本における数学用語は、中国人の数学者が翻訳等して、中国に由来しているものも多いようだが、英語の「Complex number」を「複素数」と訳したのは、東京帝国大学教授であった藤沢利喜太郎博士で、1889年の著書『数学用語英和対訳字書』においてだった。藤沢利喜太郎博士は、日本の諸統計を用いて、日本で最初の日本人の生命表を作成して、生命保険業の発足や発展に貢献したことでも有名である。