( 財政:6月以降は復興基金の資金調達も開始 )
財政面では、昨年設立が合意された7500億ユーロ(2018年価格、うち補助金3900億、融資3600億)規模の復興基金(「次世代EU」)の稼働が本格化する。今年2月には基金の中核となる「復興・強靭化ファシリティ(6725億ユーロ)」の設立が欧州議会で採択された。5月には加盟各国による資金調達法(the Own Resources Decision)の批准手続きが完了、正式にEUによる資金調達が可能になっている。
こうした状況を受け、欧州委員会は今年6-12月の資金調達計画を発表した。資金調達計画では、今年6月以降の調達額を長期債で約800億ユーロ(2019年のEUのGDP比で約0.6%)、残りを短期債で最大数百億ユーロとしている。したがって、今年は最大で1000億ユーロ程度の資金配分がされることになるだろう。
一方、加盟国による基金の使途をまとめた「復興・強靭化計画」については、欧州委員会が当初求めていた期限(4月末)から1か月以上が経過したが、執筆(6月10日)時点でも4か国が提出できていない
3。ただし、遅れはごく一部であり、資金配分額の大きいほとんどの地域で計画の提出がされていることに鑑みれば、今年下半期の資金配分に向けた準備は着々と進んでいると評価できるだろう
4。
来年以降は平準ペースでは年間約1500億ユーロの資金調達と配分がされることになるが、実際には計画の進捗次第である。本稿の見通しでは復興基金の利用は円滑なされることを前提としているが、計画の遅延・停滞があれば、ユーロ圏の回復の遅れをもたらす可能性もあるため、利用状況は引き続き注目と言える。
政治面では、2月にイタリアでドラギ氏が首相に任命された。これまで、各政党から幅広い支持を得ており、政局の安定に貢献していると言える。
ドイツでは、秋の総選挙を目前に緑の党の支持率が上昇し、現与党のCDU(キリスト教民主同盟)・CSU(キリスト教社会同盟)の支持率と拮抗しており、次期首相候補も緑の党のベアボック氏とCDU・CSUのラシェット氏が有力な状況にある。
緑の党が掲げる政策は、党名にある通り野心的な気候変動目標(二酸化炭素削減目標は、EUの2030年55%減に対し、緑の党は70%減)や人権重視の外交(対ロシア、対中国姿勢の硬化)などがあり、財政赤字には寛容と見られるが、短期的に見れば経済への負の影響が危惧される。
ただし、現時点では緑の党、CDU・CSUのいずれも単独与党となるほどの勢いはなく、いずれの党が与党となった場合でも極端な政策は取られないと見られる。ただし、これまでのメルケル路線がそのまま引き継がれることも難しいだろう。本稿の見通しではCDU・CSUが与党となり、環境配慮や対中姿勢の慎重化など、従来のメルケル路線からは一定の軌道修正をするものの、経済への大きな影響はないと見ている。ただし、政権支持率はコロナ対策に左右される部分も大きいなど総選挙へ向けて不透明感の強い状況が続くと考えられる。
3 ブルガリア、エストニア、マルタ、オランダの4か国。
4 復興基金の資金調達と配分の仕組みについては、伊藤さゆり(2021)「欧州復興基金の実相(2)-資金調達と配分遅延のリスク」Weeklyエコノミスト・レター2021-04-23を参照。計画提出後には、欧州委員会の審査(2か月以内)と欧州理事会の承認(1か月以内)がある。最大13%を前払い金として承認後2か月以内に受領でき、最速で年央から利用可能。残額の配分は計画の進展に応じて加盟国が年に2回まで申請でき、欧州委員会が予備審査(2か月以内)の上、閣僚理事会(経済・財務相理事会、ECOFIN)の意見を踏まえて承認する(なお、ECOFINで計画達成状況について疑義が呈された場合は、欧州理事会での議題となる)。