(2)一層の高齢化による利用者の属性変化に合わせた対応
導入から約10年を経て、もともと高齢者を主な対象と想定して制度設計されたデマンドタクシーも、さらに利用者の高齢化が進み、市が対応を始めている。
一点目は、利用者の数の変化である。上述のように、高齢化によって、利用回数が多かった初期の利用者が死亡したり、介護施設に入所したりして、延べ利用者数が減少している。過去10年の実績では、乗合タクシーの利用は70歳代以降で利用割合が増えることから、同市は今後の利用促進策として、70歳代への啓発を挙げている。
二点目は、利用者の属性の変化である。乗合タクシーの利用者のうち、介助者の数が、従前は年間50~60人程度であったが、2016年、2017年には100人を超えたことである
14。加齢により身体特性が衰え、一人で外出することが次第に難しくなってきた人が増えたと考えられる。また、認知症の人による利用があることも報告されている
15。さらにケアマネージャーや民生委員等から、乗合タクシーを利用できていない高齢者がいるということが報告されたという
16。要するに、高齢化により、従来の乗合タクシーの送迎サービスの範囲では対応しきれない高齢者が増えてきたのである。
一方で、同市では、福祉部局でも高齢者向けの外出支援事業などを行っており、これらと整理する必要が生じていた。福祉部局では、主に70歳以上の高齢者の外出支援事業として、福祉タクシー券(要介護者には年14,880円、介護認定のない人には年7,200円)と福祉バス券(要介護者には年16,360円、介護認定のない人には年7,920円)を配布していた
17。その他、要介護3以上の人や障がい者らを対象に、社会福祉協議会による無料の福祉送迎サービス「おでかけサポート」を実施していた。結果的に、介護認定を受けていない高齢者の中には、交通部局による乗合タクシーと福祉部局の外出支援という、両事業の主要対象となっている人がおり、年度末になると、元気な高齢者が福祉タクシー券を消化するために普通タクシーを利用し、乗合タクシーの利用が減る、という状況が起きていたという
18。
そこで、両部局の交通に関する事業を整理し、高齢者に対する移動支援のあり方を検討するため、2019年度から、同協議会が兼ねる「丹波市地域公共交通会議」の作業部会として福祉交通部会を設置した
19。議論の結果、2021年度以降の移動支援の方向性として「元気な高齢者は交通部局の乗合タクシー、要介護度の高い高齢者等は福祉部局の送迎サポート」と棲み分けを決めた。具体的には、要介護1以下と介護認定の無い高齢者には、乗合タクシーの利用を促すため、2021年度に限って、年3,000円分の乗合タクシー利用券を配布することとした。要介護2以上の高齢者等は福祉送迎サービス「新おでかけサポート」の対象とした。ただし新制度では、本人は1回500円で有料とし、介助者は原則1人まで無料で同乗できることとした
20。運転業務はタクシー事業者に委託し、メーター金額との差額を市が負担する仕組みである。従来の福祉タクシー券は廃止し、福祉バス券は要介護1以下と介護認定のない高齢者に限り、年3,000円分を配布することにした。
こうした対応に見られる通り、丹波市では一層の高齢化による利用者の属性変化に対応するため、乗合タクシーの利用状況を改めて見直すとともに、他部局の施策とも整合性を図り、高齢者への移動支援として過不足が無いように調整している。人口・世帯の減少や高齢化の加速、交通事業者の経営状態など、地域公共交通を巡る状況は毎年、変わる可能性がある以上、変化に応じて柔軟に施策を見直すことは欠かせない。実際、福祉交通部会は、今後も高齢者や障害者を対象とした交通施策について議論し、同協議会で議論する形を取っている。
14 丹波市地域公共交通活性化協議会平成30年第1回議事録
15 丹波市地域公共交通活性化協議会平成30年第3回議事録
16 丹波市地域公共交通活性化協議会令和元年第1回議事録
17 助成には所得要件などがある。
18 丹波市地域公共交通活性化協議会令和2年第2回資料
19 丹波市地域公共交通活性化協議会は地域公共交通の活性化及び再生に関する法律、丹波市地域公共交通会議は道路運送法に基づいて設置されている。
20 制度改正後3年間は、1回の利用料を300円とし、通院利用の場合も300円とするなど、激変緩和措置を設けている。
3――地域の好事例(2)