家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(2)-一時的に妊娠を控える傾向について-

2021年05月31日

(岩﨑 敬子) 保険会社経営

1―― はじめに

新型コロナ感染症は少子化にどういった影響を与えるのか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施した独自のWEBアンケート調査1を用いた、コロナ禍での家族計画の変化に関する3つの側面についての分析(一時的に妊娠を控える傾向、将来的に持ちたい子の数の減少、そして、結婚意欲の高まり)のうち、1つ目として、新型コロナ拡大によって、一時的に妊娠を控えたいと思った人の割合と要因、及び、特徴についての分析結果を紹介する。
 
1 「被用者の働き方と健康に関する調査」、2021年2月-3月に、18歳-64歳の被用者を対象として行われたWEBアンケート調査(n=5,808、うち40歳以下の回答は2,603件。)。調査方法や対象の詳細は、岩﨑敬子「家族計画の変化に見る、
新型コロナの少子化への影響(1)-イントロダクション-」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67876?site=nli) を参照。
 

2―― 一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと…

2―― 一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人は子を持ちたい人の約2割

まず、表1の通り、40歳以下の既婚の回答者(769名)のうち、一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人の割合は、10%であった。そのうち、子を持つことを希望していると考えられる人の間でみると2、コロナ禍で妊娠を控えた人の割合は、19%程度であると予想される。2020年の妊娠届数は、5月に前年同月比最も大きく減少しており、その際の減少率が17%であったことと3、整合的な結果である。男女別で見ると、女性で子を持ちたい人のうち29%、男性の子を持ちたい人のうち13%程度の人が一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思ったようだ。
 
2 新型コロナ流行前の妊娠希望の有無に関する質問は、本調査には含まれていないため、その割合は既存の調査より推定した。子のいない既婚者のうちの子どもを持ちたい人の割合は、ベネッセ総合研究所の未妊レポート2013(https://berd.benesse.jp/up_images/research/p1-16.pdf, 2021年5月25日アクセス)より、男性67.3%、女性56.9%として推定した。また、子がいる人で第2子以降を持ちたい人の割合は、株式会社ベビーカレンダー(2020年6月8日)による調査の経産婦のコロナ流行前の第2子以降を希望する人の割合である48%として推定した(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000029931.html, 2021年5月25日アクセス)。
3 厚生労働省、令和2年12月24日「令和2年度の妊娠届出数の状況について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15670.html, 2021年5月25日アクセス)
 

3―― 一時的に妊娠を控えた最も…

3―― 一時的に妊娠を控えた最も大きな理由は「感染の親子への影響の不安」

40歳以下で既婚の回答者のうち、新型コロナ拡大によって一時的に妊娠を控えたいと思った人の間で、その理由の分布を示したのが表2である4。最も多く選択されたのが、「感染の親子への影響の不安」で、全体の49%。次に多かったのは、「子育てへの経済的な不安」で37%、その次が「ワクチンの親子への影響の不安」で35%であった。また、女性の間では、「感染の親子への影響の不安」の次に、「子育て環境の変化」を理由として挙げた人が多く、一時的に妊娠を控えたいと思った女性のうち、48%が選択し、男性の19%を大きく上回った。
 
4 本調査では、1つ目の質問として「新型コロナ感染症の拡大によって、あなたの家族計画(結婚・離婚・出産計画や将来持ちたい子どもの数等)に変化はありましたか。」という質問で、「結婚したいと感じた」「離婚したいと感じた」「一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った」「将来的に持ちたい子どもの数が減った」「将来的に持ちたい子どもの数が増えた」「その他」「上記のような家族計画の変化はなかった」の選択肢から複数選択形式で選択頂いた後、2つ目の質問として「上記のような家族計画の変化はなかった」以外を選択した人に対して、再度複数選択形式で、「その理由はなんですか」と質問している。そのため、理由の分布については、1つ目の質問で複数の変化を選ばれている場合は、「一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った」こと以外の理由も含まれている可能性がある点に、ご留意頂きたい。
 

4―― 一時的に妊娠を控えたいと思った人の特徴

4―― 一時的に妊娠を控えたいと思った人の特徴

さらに、コロナ禍で一時的に妊娠を控えた人の特徴を捉えるため、40歳以下の既婚者を対象として、一時的に妊娠を控えたいと思ったと答えた場合に1、それ以外の場合に0をとるダミー変数を被説明変数とし、様々な属性を説明変数としたプロビットモデルの推計を行った。結果は表3の通りである。
表3に示された結果から、女性、年齢が低い女性、年収が高い男性(1000万円以上)、身近な知人が新型コロナに感染した女性が、一時的に妊娠を控えたい傾向が強かった傾向がみられる。一方、子どもが2人いる女性が一時的に妊娠を控えたいと思っていない傾向がみられるのは、もともと妊娠を希望していない人が多いためと考えられる5

また、家事育児負担が過去1年の間に増えた女性も、コロナ禍で一時的に妊娠を控える傾向が見られた。一方、2020年は在宅勤務をしていなかったものの、2021年に在宅勤務をするようになった女性は、一時的に妊娠を控えたいと思うようになる傾向が小さく、在宅勤務の導入は、コロナ禍で妊娠を希望する人のサポートに繋がる可能性があることが示された。
 
5 本調査のデータには新型コロナ流行前の妊娠希望の有無の情報が含まれていないため、分析を新型コロナ流行前に妊娠を希望していた人に限ることができない。そのため、40歳以下の既婚者全員を含めた分析になっている。実際に、「第15回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、出産予定の子どもの数の平均は2人であることから、2人の子がいる人の多くが、それ以上子どもを持つことを希望していなかったために、コロナ禍で妊娠を控えようと思った人も少なかった可能性が考えられる。
 

5―― おわりに

5―― おわりに

新型コロナ拡大によって、子を持ちたいと思っている人の約2割が一時的に妊娠を控えたいと思ったようだ。その要因としては、「感染の親子への影響の不安」が最も大きく、続いて「子育てへの経済的な不安」が大きかった。その他にも、「ワクチンの親子への影響の不安」、「子育て環境の変化」等、様々な要因があることが確認された。これは、コロナ禍で、子を持ちたい人への多面的なサポートの必要性を示す。

こうした中で、在宅勤務になった女性が一時的に妊娠を控えたいと思う傾向が小さかったことは、コロナ禍での在宅勤務の拡大が、妊娠を希望する人にとって、重要なサポートとなる可能性があることを示唆する。この理由としては、感染の親子への心配を和らげる効果が考えられる。

一方で、コロナ禍では女性の家事育児負担が男性より増加したことが伝えられている6。本分析では、家事育児負担の増加した女性は一時的に妊娠を控える傾向が強いことが確認された。また、子育て環境の変化は、男性の間では妊娠を控える大きな要因になっていないが、女性の間でコロナ禍で一時的に妊娠を控えたいと思う大きな要因として挙げられている。これは、妊娠計画は、働く女性の家事育児負担状況から受ける影響が大きいことをコロナ禍で浮彫にしたものと考えられる。新型コロナを機会に、家族で家事育児の負担状況について改めて考える機会を持つことを推奨したり、社会のサポート体制を整えたりしていくことが、今後の少子化対策として重要なことを示唆しているかもしれない。
 
6 村松容子「共働き世帯におけるコロナ自粛中の家事・育児時間の変化~家事・育児時間は男女とも増加。増加割合には男女差。」基礎研レポート, 2020年10月19日(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65850?site=nli, 2021/5/25アクセス)。

保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子(いわさき けいこ)

研究領域:保険

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴

【職歴】
 2010年 株式会社 三井住友銀行
 2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
 2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
 2021年7月より現職

【加入団体等】
 日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
 博士(国際貢献、東京大学)
 2022年 東北学院大学非常勤講師
 2020年 茨城大学非常勤講師

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