1|改正前の感染症法の概要
感染症については、感染症法第6条において、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ、指定感染症等に分類定義しており、その分類に従って適用される条文が異なる。主な条文は以下の通りである。
(1) 感染症の予防やまん延防止に関する政府の基本方針策定や都道府県の予防計画策定、
(2) 積極的疫学調査をはじめとする情報の収集と公表、
(3) 感染症の患者やその疑いがある人への就業制限や健康診断、入院などの勧告や措置、
(4) 物件の消毒や家屋への立ち入り禁止、交通制限、
(5) 患者への医療提供、などである。
新型コロナについては、法律で直接定めていたわけではなく、感染症法上の指定感染症(感染症法第6条第8項)として、政令指定されていた(新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令。以下、新型コロナ政令)。また、新型コロナに適用される条文も同政令で定められていた。なおかつ、これらは時限的な措置であった(新型コロナ政令上は2022年1月31日までとされていた)。以下で、新型コロナ政令により適用される主な条文を見ておこう。
第一に、感染者が発生した場合に感染経路や症状の特徴などを追跡・調査する積極的疫学調査が行われる(感染症法第15条)。いわゆるクラスターを発見するのも、この調査の役割である。都道府県知事はその職員に、患者、疑似症患者および無症状病原体保有者等に対して質問・調査させることができる(同条第1項)。ここで疑似症患者とは、感染症の疑似症を呈している者をいう(感染症法第6条第10項)。たとえば味覚障害や高熱など新型コロナが疑われる症状があるものの、いまだ検査結果が出ていない者などをいう。
また、無症状病原体保有者とは感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していない者をいう(感染症法第6条第11項)。たとえばPCRで陽性結果が出たが、症状がない者などをいう。これら患者、疑似症患者および無症状病原体保有者等は調査に協力すべき努力義務がある(感染症法第15条第6項)。
第二に、患者の入院である。新型コロナの患者
1に対して都道府県知事は入院の勧告を行うことができる(感染症法第19条第1項)。患者が勧告に従わない場合には、入院させることができる(入院措置、感染症法第19条第3項)。入院期間は72時間を超えてはならないが(同条第4項)、必要に応じて10日間の延長ができる(再延長も可。感染症法第20条)。現行法では、入院措置に反した場合の罰則はない。
第三に、厚生労働大臣と都道府県知事の権限に関する規定である。積極的疫学調査の主体や入院勧告・措置の主体は都道府県知事である。ちなみに、これらは第一号法定受託業務とされている(新型コロナ政令第4条)。第一号法定受託業務とは本来国の役割ではあるものの、適正な処理のために地方公共団体が処理すべきものとされる業務である。この観点からは、地域に密着した対応がなされつつも、国としての整合性を持った対応が行われることが望ましいといえる。
また、今回改正の対象となった、厚生労働大臣と都道府県知事の医療関係者に対する協力要請をする権限も規定されている(感染症法第16条の2)。
1 ここでいう患者には、無症状病原体保有者を含む(新型コロナ政令第3条、感染症法第8条第3項)。