3|「囲い込み問題」への対応策の方向性
それでも囲い込みは依然として争点になっており、財務省は2019年度予算執行調査で、「介護事業所を併設しているサ高住では介護サービスの利用が多い」といった実態を明らかにしました。高齢者住宅財団の調査でも、集合住宅に併設されている介護事業所の問題点として、回答を寄せた70.9%の自治体が囲い込みを問題視しています
19。このため、2021年度制度改正では限度額の利用割合が高い利用者を多く受け入れているサ高住に対し、ケアプランの点検など規制が強化されます
20。
しかし、問題は簡単ではありません。外見上、良質な事業者と悪質な事業者が区別しにくい面があるためです。この状況が生まれる理由を少し解説すると、
第12回で述べた通り、医療・介護現場では現在、継続的なケアとか、関係者の連携が求められています。一方、囲い込みとされる事例でもサ高住の事業者と介護サービス事業者が連携(結託?)しつつ、高齢者に対して継続的なサービスを提供しています。つまり、両者は「連携」している点で同じであり、サービスの内容が良質なのか、悪質なのか、外見だけでは区別しにくいと言えます。
こうした中で、囲い込みを制限するため、全国一律の報酬単価を調整すれば良質な事例も不必要な影響を受けることになります。むしろ、先に触れた減算回避のような形で、悪質な事例は「規制の抜け穴」を探そうとするので、良質な事例だけが影響を受ける危険性さえ考えられます。
そこで、囲い込みへの対応策として、現場が動きやすい制度改正が必要と思われます。例えば、先に触れた市町村協議制については、市町村の意見を優先させる制度改正などが考えられます。
さらに都道府県がサ高住の国庫補助金を申請する際、市町村の意見聴取を求める制度についても、根拠は通知(技術的助言)であり、都道府県に従う義務はありません。実際、この趣旨を再徹底する通知が2017年8月、国土交通省と厚生労働省が共同で発出されている点から見ても、趣旨が徹底されているとは言えない状況と推察され、法的拘束力を強める方策も考えられます。
このほか、介護保険サービスなどを調整するケアマネジャー(介護支援専門員)の独立性拡大
21とか、不適切な事例に対する市町村の指導、サ高住の運営情報の開示拡大も論点になります。
さらに現行の枠組みでも、市町村は独自の高齢者居住安定確保計画を策定できますし、それなりにツールはあります。ただ、ツールを市町村が使いこなしているとは言えず、市町村協議制に関しては、三重県桑名市が制度を活用したことが話題になった
22程度であり、認知度も高くありません
23。このため、市町村が既存制度を上手く活用できるような国、都道府県の周知、支援も必要になると思います。
19 高齢者住宅財団(2020)「高齢者向け集合住宅併設事業所に対する実地指導の推進に関する調査研究事業報告書」(老人保健健康増進事業)。
20 2020年12月10日『ケアマネジメントオンライン』配信記事。
21 2020年7月16日拙稿「ケアプランの有料化で質は向上するのか」などを参照。
22 2014年6月27日『読売新聞』。
23 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)「高齢者の在宅生活を支えるための市区町村における独自施策についての調査研究事業報告書」(老人保健健康増進等事業)では市町村協議制について、「詳しいことまで知っている」と答えた市町村は22.8%にとどまった。有効回答数688件。