1|要件を部分的に緩和
第3番目の論点として、オンライン診療を取り上げる。これは表1の(2)に対応しており、4月1日から算定が始まった診療報酬改定では、要件が部分的に緩和されたものの、新型コロナウイルス対策で争点化した。
ここで少しオンライン診療を巡る経緯を振り返ると、保険診療で初めて認められたのは2018年度診療報酬改定だった。具体的には「オンライン診療料」(月70点)に加えて、ICT技術を活用して生活習慣病などの医学管理を評価する「オンライン医学管理料」(月100点)、在宅療養中の患者に対する医学管理を評価する「在宅時医学総合管理料 オンライン在宅管理料」(月100点)などが創設された(いずれも点数は2018年度改定時点)。
ただ、問題となったのは厳しい要件である。オンライン医学管理料については、下記のような要件が定められていた。
- オンライン診療料が算定可能な患者に対し、リアルタイムでのコミュニケーション(ビデオ通話)が可能な情報通信機器を用い、オンラインによる診察を行った場合に算定。ただ、連続する3カ月の算定は認めない。
- 患者の同意を得た上で、対面による診療(対面診療の間隔は3カ月以内)とオンラインによる診察を組み合わせた療養計画を作成し、計画に基づき診察を実施する。
- オンライン診療料の算定患者について、緊急時に概ね30分以内に医療機関が対面による診察が可能な体制を有している。
- 1カ月当たりの再診料やオンライン診療料の算定回数に占めるオンライン診療料の割合が1割以下である。
さらに、▽生活習慣病など10種類の管理料
27の対象となっている患者、▽こうした管理料などを初めて算定した後の6カ月間は毎月、同じ医師が対面診療を実施している患者――という要件も設定された。つまり、初診を対面で実施した患者に対象を限定する「初診対面原則」が設定されたことで、オンライン診療が対面診療の延長線に位置付けられたほか、生活習慣病などで継続的に診ている患者について限定的に導入された。
しかし、厚生労働省の調査(2018年5月診療、同年6月審査分)によると、オンライン診療科などを届けている医療機関は病院で65施設、診療所で905施設にとどまった。そこで、中医協では支払側から「相当厳格な算定要件が設定されたのも事実。あまりに厳格で普及の足かせになっていることも懸念している」との意見が示された
28ほか、筆者自身も現場で「要件が厳し過ぎて使いにくい」という意見を耳にしていた。
こうした厳しい要件が設定された背景には日本医師会の懸念があった。中医協では規制緩和を迫る支払側に対し、日本医師会はICTの活用を認めるとしつつも、「顔色も息遣いも雰囲気も表情も、その時の状況も全て対面」「どんなにICTが発達しても、(筆者注:対面診療の)補完。医療の本質は変わらない」と強く反対した
29。このため、厚生労働省は「(筆者注:関係者が)合意できる部分から、慎重かつ安全に運用を始めたい」という判断
30の下、厳しい要件を設定することで、試行的に導入された面があった。
その後、2020年度診療報酬改定では要件緩和の是非が争点となり、規制緩和を促す診療側に対し、日本医師会は「大幅に緩和するとモラルハザードが起きる」と慎重姿勢を崩さなかった
31ため、2018年度改定と同様の意見対立が見られた。
最終的に、事前の対面診療期間を6カ月間から3カ月間に縮減するとともに、対象疾患に慢性頭痛を追加するなどの制度改正が中医協で決まった。さらに医療資源に乏しい地域で遠隔診療を部分的に容認したほか、オンラインを使った外来患者への服薬指導も診療報酬で手当てされた。
その意味では2018年度改定に続き、2020年度改定についても、「関係者が合意できる部分」から少しずつ対象を拡大する漸増主義的な方法が採用されたと言える。
27 10種類の管理料とは先に触れた主治医機能を評価する「地域包括診療料」に加えて、「認知症地域包括診療科」「生活習慣病管理科」「難病外来指導管理料」「特定疾患療養管理料」「小児科療養指導料」「てんかん指導料」「糖尿病透析予防指導管理料」「在宅時医学総合管理料」「精神科在宅患者支援管理料」。
28 2019年6月12日の中医協総会における健康保険組合連合会の幸野庄司理事による発言。6月12日『m3.com』配信記事。
29 2017年1月11日の中医協総会における日本医師会の中川氏による発言。中医協総会議事録。
30 2018年3月29日『日経メディカル』における厚生労働省医政局医事課の久米隼人課長補佐によるコメント。
31 2019年11月8日の中医協総会における日本医師会の今村聡副会長による発言。11月9日『m3.com』配信記事。