(3)三重県の先駆的な取組事例
高度部材産業についても、川下産業、高度部材産業、大学・研究機関など多様な組織の連携による研究開発を促進する、オープンイノベーションの場の形成が求められ、行政が高度部材産業の競争力強化策として場の形成を支援することが考えられる。
その先駆的取組として、全国の自治体の中でいち早く高度部材産業に着目し、その振興に注力してきた三重県が、四日市市と連携して2008年に同市に開設した「高度部材イノベーションセンター」(略称AMIC: Advanced Materials Innovation Center)が挙げられる。AMICでは、産学官連携による研究開発機能とともに、中小企業の課題解決支援、若手技術者などの人材育成機能も担っており、高度部材分野にフォーカスを当てた支援活動を行っている。AMICを拠点に、県内外の大学・研究機関との産学官連携を通じて、北勢地域
20に集積する素材・部材産業と後背地に立地する電機・自動車など加工組立産業の大企業量産拠点の連携を促進し、高度部材の強みを活かした高付加価値製品を開発・量産する狙いも込められている。
AMICは、直近ではセルロースナノファイバー(以下、CNF)
21の研究開発支援に取り組んでいる。CNFとは、国内にも豊富に存在する木材などのバイオマス資源等から化学的・機械的処理により取り出した、直径数~数10ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の植物由来の繊維状物質であり、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を有し、熱による膨張・収縮も少なく、日本発の夢の新材料として大きく期待されている。包装材(酸化防止膜)、化粧品・食品向け等の増粘剤、自動車・航空機の軽量化のための補強材など、多岐にわたる分野での活用が期待できるという。
三重県産業支援センターは三重県工業研究所と共同で事業実施者となり
22、環境省の「平成27年度地域における低炭素なセルロースナノファイバー用途開発FS委託業務」を受託し、森林資源や農林水産物などの地域資源のCNF原料としての可能性やCNFの高度部材としての用途開発の可能性について調査研究を実施したが、AMICはその事務局業務を担った。
この受託調査の一環で2015年に発足した「みえセルロースナノファイバー協議会」
23の事務局もAMICが担っている。同協議会には、三重県内外から大企業、中堅・中小企業、大学・研究機関、行政機関などの72機関(16年3月現在)が会員として参画しており、地域横断的な広域ネットワークと産学官連携プロジェクトに向けた基盤が構築されている。産業界からは、いち早くCNFの製品化に成功した工業用薬剤メーカーである第一工業製薬
24(本社所在地:京都市)、アカデミアからは、東京大学大学院・磯貝明教授と同・齋藤継之准教授のCNF研究の第一人者2人が参画している。
20 県北部に位置する四日市市、桑名市、鈴鹿市、亀山市、いなべ市の5市および5町から構成される地域。
21 アベノミクスの成長戦略「日本再興戦略 2016」(2016年6月閣議決定)にも、「木質バイオマスの利用促進や、セルロースナノファイバーの国際標準化・製品化に向けた研究開発、(中略)を進める」と明記された。
22 三重県産業支援センターは、地域産業振興のために新産業創出や地域産業の経営革新を支援する総合的な産業支援機関であり、公益財団法人の形態をとる県の外郭団体である。AMICは同センターの北勢支所と位置付けられる。三重県工業研究所は、地元の中小企業からの技術相談等に対応する公設試験研究機関(公設試)であり、県の一部門である。
23 同協議会は、CNFに関する情報収集・提供、CNF製造企業とユーザー企業のマッチング、会員による共同研究実施の支援を活動内容としている。会員の内訳は、企業51社、大学・高専教員11名、行政機関9機関、技術アドバイザー1名となっている(合計72機関、16年3月14日現在)。
24 同社と三菱鉛筆の共同開発により、同社が製品化したCNFを新規ゲルインクボールペンのインクに増粘剤として採用し、世界初のCNF配合のボールペンの実用化に成功した。三菱鉛筆が2015年より欧米で同ボールペンを先行販売し、16年には国内でも販売を開始した。同ボールペンは、日本をPRする広報ツールとして、16年5月に開催された伊勢志摩サミットに参加した世界各国の首脳・政府関係者や報道陣に無償提供された。