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長期金利1.6%到達は通過点か?~今後の金利見通し

2025年08月04日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 日本の金利上昇は米金利上昇に引っ張られる形で発生することが多いが、今年の年初以降は日本の長期金利のみが上昇しており、日本独自の要因で上昇したということになる。
     
  2. 一つは「日銀利上げ観測の上昇」だ。春闘での高い賃上げ実現や米国と主要国との関税合意等を受けて、将来の政策金利予想を表す10年物OIS金利は年初から上昇している。
     
  3. もう一つは、長期金利と10年OIS金利の差が示唆するリスクプレミアムの拡大だ。4月までは債券価格の変動リスクが高まり、リスクプレミアムとして反映されたと考えられる。その後は参院選を控えて国債増発への警戒が高まり、財政リスクに対するプレミアムに置き換わっていったと考えられる。日銀や生保による大口・構造的な需要が見込まれなくなったため、投資家が要求するプレミアムが拡大しやすくなった面もある。
     
  4. 投資家別に見ると、今年上半期には、規制対応の一巡やボラティリティ上昇、財政懸念を受けて国内投資家が国債を買い控えたことが長期金利の上昇に繋がったが、その一方で、金利上昇を好機と見た海外勢が集中的に買いで受け止めたという構図になっている。
     
  5. 今後、来年度末にかけての長期金利の見通しを考えると、メインシナリオとしては緩やかな上昇基調が続くと予想される。まず、日銀は今後も緩やかな利上げを継続するとみられるため、市場における将来の政策金利予想が緩やかに高まり、長期金利の上昇圧力になると見ている。また、リスクプレミアムも高止まりが予想される。日銀が来年度末にかけて国債買入れの減額を進める方針を決定した一方で、参議院選を受けて今後の財政運営が拡張的になりやすくなったため、市場の警戒感は燻り続けるだろう。将来の政策金利予想の高まりとリスクプレミアムの高止まりを受けて、長期金利は緩やかに上昇に向かい、今年度末に1.7%、来年度末に1.8%程度に上昇していくと見込んでいる。
     
  6. メインシナリオに対するリスクを考えると、下振れリスクも上振れリスクも相応にある。仮に今後大規模な財政拡張に伴って国債が大幅に増発されることになれば、リスクプレミアムはさらに拡大に向かう可能性が高い。特に、今年上半期に国債を大きく買い越した外国人投資家は機動的にポジションを変更する傾向があるだけに、財政懸念を口実に海外勢が大幅な売りに転じた場合には影響が大きくなる。逆に、トランプ関税による内外経済の下振れが想定以上になる場合には、日銀の利上げが遠のくことで、長期金利に低下圧力がかかることになる。ただし、その場合には、財政出動が拡大しやすくなるため、リスクプレミアムの拡大が長期金利を下支えする展開もあり得る。

 
■目次

1.トピック:長期金利1.6%到達は通過点か?
  (日本独自の要因が押し上げ)
  (長期金利の見通しとリスク)
2.日銀金融政策(7月)
  (日銀)現状維持
  (今後の予想)
3.金融市場(7月)の振り返りと予測表
  (10年国債利回り)
  (ドル円レート)
  (ユーロドルレート)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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