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循環型社会を支える「ゼロ・ウェイスト」への現在地-行動科学で考える「家庭系ごみ排出量2,175万トン」の削減

2025年05月22日

(小口 裕) 消費者行動

1――はじめに

1ゼロ・ウェイスト~「ゴミを発生させない」ことをゴールとした環境・社会政策
ゼロ・ウェイスト(Zero waste)とは、廃棄物の焼却や埋立てに頼るのではなく、そもそもゴミを発生させないための概念であり、そのための環境・社会政策である。

ただし、ゴミを減らすとは言え、単なるリサイクル活動ではない。製品の設計・消費・回収といったバリューチェーン全体の再構築を視野に入れた包括的なアプローチであり、ゼロ・ウェイストを実現するためには、物を作る段階、買う段階、使い終わった後の処理段階すべてでゴミを減らすことが求められることになる。

ゼロ・ウェイスト政策の最初の導入は、1996年のオーストラリアまで遡る1。国内では2003年の徳島県上勝町の取り組みを皮切りに、企業や市民活動と、さまざまな領域で広がりを見せており、現在(2025年4月)では全国の8自治体2が「ゼロ・ウェイスト」宣言を行い、実践的な取り組みを進めている。

ゼロ・ウェイストの定義(Zero Waste International Alliance策定/2018年版)3:
・資源の保全: 責任ある生産、消費、再利用、回収を通じて、すべての資源4を保全すること。
・環境負荷の排除: 焼却を行わず、環境や人間の健康を脅かす排出をしない。

本稿では、消費者の視点から、このゼロ・ウェイストを始めとする家庭ゴミ削減に向けた生活行動に焦点をあて、行動科学的な視点を踏まえながら、その行動促進に向けた対応の方向性を提案する。
 
1 1996年にオーストラリア首都特別地域政府により「2010年までに廃棄物ゼロ」(No Waste by 2010)法が可決された。
2 日本のゼロ・ウェイスト宣言都市は、徳島県上勝町、福岡県大木町、熊本県水俣市、奈良県斑鳩町、福岡県みやま市、東京都、神奈川県逗子市、神奈川県葉山町の8自治体となる(2025年3月)
3 Zero Waste International Alliance (ZWIA) :ゼロ・ウェイストの国際基準、政策、ベストプラクティスを推進する組織。2003年に設立され、廃棄物の削減と資源の有効活用を通じて、持続可能な社会を構築することを目指している。なお、現在、日本のゼロ・ウェイスト団体は同組織には掲載されていない。
4 実際は、資源化率が90%を超えるものとされている。
2家庭系ごみ排出量の現状~過去10年で減少傾向も、リサイクル率は横ばい
このゼロ・ウェイストが注目される背景には、依然として深刻な一般廃棄物処理に関わる問題がある。

そもそもゴミ減量に向けた政策的な取り組みは、環境省(ゴミ分別指針と自治体補助)、経産省(拡大生産者責任など)、農水省(食品リサイクル法)、消費者庁(行動啓発と表示ガイド等)で主に進められており、横断的な政策的支援も整いつつある。

環境省が2024年4月に公表した「令和4年度一般廃棄物処理実態調査結果」によると、日本国内の一般廃棄物の状況(令和4年度排出状況)は、総排出量:約3,897万トン、1人1日当たりの排出量:約851グラムとなり、リサイクル率:約19.5%に留まる。そのうち、家庭系ごみ排出量は2,175万トン、1人1日当たりの家庭系ごみ排出量は475グラムとなった(数表1)。過去10年間、1人1日当たりの家庭系ごみ排出量は長らく横ばいが続いていたが、この数年でやや減少傾向がみられる。しかしリサイクル率をみると、約20%前後で横ばい5が続いている状況となっている。ゴミの最終処分場の残余年数も24.8年となり、残余容量も減少傾向にあるなかで、ゼロ・ウェイストに向けた道程は依然として予断を許さない状況にあると言えるだろう6
 
5 リサイクル率=(直接資源化量+中間処理後再生利用量+集団回収量)÷(ごみの総処理量+集団回収量+家電処理量)で算出される
6 環境省(2025)一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について (2025年3月27日)
3|「ゼロ・エミッション/ゼロ・ウェイスト」の認知率は約1割に留まる~見えにくい消費者との関わり
ニッセイ基礎研究所の2024年調査7によれば、サステナビリティ・キーワードのうち「ゼロ・エミッション/ゼロ・ウェイスト」の認知率は全国で11.6%、同様に「3R(リデュース・リユース・リサイクル)/4R(3R+リフューズ(Refuse))」の認知率は19.2%と約2割にとどまっており、徳島県川勝町の日本での初導入から20年余りも経過しているわりには、まだまだ伸び悩んでいる様にみえる。「ゼロ・ウェイスト(Zero waste)」という言葉のシンプルでわかりやすい印象とは裏腹に、実態としては、まだまだ「環境に熱心な一部の取り組み」「耳にしたことはあるが、どのように自身に関係するのか見えにくい」というのが、多くの人に共通する実感ではないだろうか。
 
7 サステナビリティに関する消費者調査/(2024年調査)調査時期:2024年8月20日~23日/調査対象:全国20~74歳男女/調査手法:インターネット調査(株式会社マクロミルのモニターから令和2年国勢調査の性・年代構成比に合わせて抽出)/有効回答数:2,500、

2――消費者のゼロ・ウェイストに向けた行動の実態調査結果

2――消費者のゼロ・ウェイストに向けた行動の実態調査結果

1ゼロ・ウェイストに向けた行動タイプ ~ 義務化行動・任意行動・それ以外(例:コンポスト設置など)
それでは、消費者のゼロ・ウェイストに向けた消費者の生活行動はどのような状況にあるのだろうか。

次のデータは全国の消費者によるゼロ・ウェイスト関連行動の実態を示している(数表2)。データは、全国の高齢者・低所得層・郡部などのインターネット非利用者または調査モニター非登録者を含めた広範な実態把握を目的として、日本リサーチセンター「NOS(日本リサーチセンター・オムニバス・サーベイ)」(全国15~79歳男女対象の、無作為抽出による個別訪問留置方式調査 n=1200)8を用いた。自身が日常的に行っていることを26個の生活行動からマルチアンサーで回答してもらい、そのうちゼロ・ウェイストにつながる行動(ゼロ・ウェイスト行動、以下同)を抽出して、それを性別・年代・居住地域・都市規模でクロス集計している。

このゼロ・ウェイスト行動は、家庭ごみの分別排出(容器包装リサイクル法/消費者に対して市町村が定めた分別ルールに従ってゴミを排出する義務)、マイバッグ(プラスチック製買物袋有料化制度/小売事業者に対してレジ袋の一律有料化義務)など、消費者・小売事業者に対して一定の義務化がなされているもの(以降、義務化行動)と、それ以外の任意行動、たとえば「コンポスト」等の設備が必要な項目に分類している。
 
8 日本リサーチセンター(2024)「NOS(日本リサーチセンター・オムニバス・サーベイ)」は、全国の15~79歳の男女個人1200名を対象に実施された訪問留置調査である。本調査は、全国200地点を住宅地図データベースから無作為抽出し、調査員が対象世帯を個別訪問し調査票を配布・回収する個別訪問留置方式により実施された。インターネット調査やパネル調査ではなく、直接訪問による調査であるため、インターネット非利用者や調査パネル未登録者を含む幅広い一般生活者の意識と実態が収集されており、地域や都市規模、性別・年代構成などが日本の人口構成比に基づきバランス良く反映されている点に特徴がある。
2|調査結果(全体・性年代別)~義務化行動は7割を超えるが、任意の行動は半数程度に留まる
まず「ゴミを分別する」(78.7%)、「買い物にマイバッグを持参する」(71.3%)など、義務化行動の行動率は7割~8割弱に達しており、これらは「やらないと困る」日常のルールとして生活に定着している様に見える。

一方、任意行動は「食品ロスにならないよう必要な量だけを買う」(50.3%)、「紙やプラスチック、アルミ等をリサイクルする」(49.3%)、「マイボトル(水筒)を持参する」(44.4%)と4~5割に留まっている。手間と情報不足による「行動コスト(行動時の経済的・物理的・心理的負担)」がネックとなっている可能性もあるだろう。

また、設備導入を伴う「生ごみ処理にコンポストを使う」(5.2%)の行動率は1割にも満たない。
3義務化行動であっても、全世代に等しく浸透しているとは言い難い
性別でみると、全項目で女性の行動率が男性を平均2~5ポイント弱上回り、生活行動の「実務者」として女性が牽引している構図が見える。一方で、若年層、とりわけ15~29歳は全体的に行動率が低く、「ごみ分別をする」は、全体で78.7%と8割弱に対して、10代~20代は、それぞれ62.9%、66.9%と6割台半ばに留まっている。たとえ「義務化行動」でも、全世代に等しく、生活行動として浸透しているとは言い難い状況だ。
4ゼロ・ウェイスト行動の課題~「やりたいけど、できていない」意識・行動ギャップをどう埋めるのか
ニッセイ基礎研究所の分析によれば、20代はサステナブルな情報収集や発信などの「社会との関わり」意識が高く積極的だが、実際のサステナブル行動率は高いとは言えない。言わば、意識の高さが十分に行動に直結していない「意識‐行動ギャップ」が見受けられ、若年層はゼロ・ウェイスト行動を始め、サステナブルな行動がライフスタイルに十分に組み込まれていないという現実も浮かび上がる。

その背景には、サステナブル行動への「障壁意識(例:いつ、何をやって良いのかわからない、等)」や「自分ごと意識(使命感)(例:危機感を感じ、すぐに取り組まなければならないと感じる意識)」の不足が一因となっていることが分析から示されており9、20代に限らず、このギャップを埋めるための対処が必要であろう。

具体的には、消費者のサステナブル行動には、「自分ごと意識(使命感)」→「責任意識(手間がかかっても、お金がかかっても行動をとる)」→「日常習慣行動(行動を起こす)」→「社会との関わり意識(周囲で話をする、発信する)」という経路が確認されているが(図1)、この行動を起こすためには、起点である「障壁意識(きっかけがない、わからない)」「制約感(時間があれば、お金があれば・・)」といった行動コストに繋がる心理を抑制しながら、さらに「自分ごと意識(使命感)」を高めていく両輪の施策が重要となる。
 
9 ニッセイ基礎研レポート「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)」(2025年3月)。2023年との比較では、サステナビリティへの「自分ごと意識」が高まっているが、サステナビリティ行動を抑制する「障壁意識」も増加しており、さらに、年代別では若年層(20代)は、サステナビリティについて学び・社会に発信したいという「社会との関わり」意識が高いという点を指摘している。
5調査結果(地域・都市規模別)~地域差・都市規模の差は性別・年代差ほど大きくはない
さらに、ニッセイ基礎研究所では、ゼロ・ウェイスト行動において、居住地域・居住都市の規模別の分析を行った。結論として、これらには性別・年代ほど目立った差は見られない。地域ブロック等で、生活インフラが異なる基礎自治体が一括集計されることで、市区町村レベルのばらつきが平均化されている可能性もある。

実際は、粗大ごみ有料化の有無、指定袋価格、分別区分数 などは基礎自治体ごとに異なっており、ゼロ・ウェイスト政策を推進する上で、自治体が果たす役割は大きい(数表3)。

特に、廃棄物処理費や埋立地の逼迫といった問題は、自治体財政にとって看過できない負担となり、長期的には地域経済の持続可能性を揺るがすリスクでもある。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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