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官民連携「EVカーシェア」の現状-GXと地方創生の交差点で進むモビリティ変革の芽

2025年05月09日

(小口 裕) 消費者行動

■要旨

脱炭素社会を目指すグリーン変革(GX)の取り組みの中で、地域経済社会への貢献や社会課題の解決に向けた有望な実践例の一つとして注目されているのが、官民連携モデルによるEVカーシェアリングであり、官民連携の取り組みとして全国の自治体で導入が進みつつある。
 
EVカーシェアとは、「電気自動車(EV)を複数の利用者が共同利用するモビリティサービス」である。個人所有の負担を軽減しつつ、脱炭素社会への移行を後押しする仕組みとして注目されている。

そもそもカーシェア市場のグローバルの市場規模は2024年時点で約89億ドル、2033年には244億ドルに達する見通しだ。日本国内でもタイムズモビリティなどの主要事業者が、経済性に優れた軽自動車規格のEVを相次いで導入しており、都市機能の再設計、住民サービスの高度化、そして地方創生やGX推進を同時に担う、戦略的モビリティモデルと言える。

また、視点を変えると、EVカーシェアは、日常生活の導線上で自然に組み込める利便性の高いサービスとして効果の実感が得やすい。そのため、EVカーシェアは「効果が見える」「生活導線に自然に溶け込む」という点で、住民にエシカル消費を促すマーケティング施策と高い適合性を持つと考えられる。
 
個人所有に代わる協働消費(シェアリングエコノミー)の促進は、持続可能な消費へのシフトにおいて大きな課題である。経済社会活動の根幹である「移動」と、エネルギー消費の効率化、そして技術的なイノベーションを組み合わせて提供されているEVカーシェアは、今後の地方創生2.0や地方創生SDGsの分野においても成長が期待されるアプローチの1つであると言えるだろう。

■目次

1――はじめに~EVカーシェアを通じたマーケティングから考えるグリーン変革(GX)
2――EVカーシェアとは何か─デジタルとサステナの融合による利用拡大の背景
3――地方創生やGX推進を同時に担う「戦略的モビリティモデル」
4――サービス導入パターンから読み解く──官民連携「EVカーシェアモデル」の現在地
5――サステナブル・マーケティングの視点(1) ~若年層へのインパクト
6――サステナブル・マーケティングの視点(2)
  ~最難関の「合理性を重視」する生活者層の取り込み
7――地方創生とGX政策をつなぐ
  ─「地域経済社会」「環境・エネルギー」「Society5.0」への貢献

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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