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国民負担率 24年度45.8%の見込み-高齢化を背景に、欧州諸国との差は徐々に縮小

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.338]

2025年05月09日

(篠原 拓也) 保険計理

財務省は3月に国民負担率を公表した。

◇国民所得に対する比率が一般的

国民負担率は、国税や地方税の租税負担と、国民年金や健康保険の保険料などの社会保障負担の合計を、所得で割り算して算出する。所得には、国民所得が用いられる。国民所得は、個人が受け取る給与・報酬、預金利子、有価証券配当等に、企業所得を足し算して計算される。

◇2024年度の実績見込みは45.8%

国民負担率の2023年度の実績は46.1%、24年度の実績見込みは45.8%と示された。-0.3ポイントの低下は、昨年6月に実施された定額減税の影響とみられる。20年度にはコロナ禍への対応で上昇し、22年度には過去最高の48.4%となった。以来、40%台後半の高水準が続いている。25年度の見通しは46.2%と示されている。

近年の上昇には、14年4月と19年10月の2度の消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療・介護等の社会保障負担の増大という背景がある。22~24年にかけて、団塊の世代が75歳以上となった結果、高齢者の医療・介護のニーズは、さらに高まることが予想される。国民負担率の上昇圧力は増大していくと言えそうだ。

◇潜在的国民負担率はコロナ禍後は低下

国民負担率に財政赤字(対国民所得比)を加えたものは、潜在的国民負担率とされる。将来世代が負担する財政赤字を加味した潜在的な負担水準を意味する。

潜在的国民負担率は、20年度にコロナ禍への対応で62.7%となったが、その後低下し、24年度の実績見込みは50.9%、25年度の見通しは48.8%と示されている。

◇日本は欧州諸国よりも低水準だが…

国民負担率の国際比較を見てみよう。19年から22年にかけての上昇幅で見ると、日本が一番大きい。従来、日本は、社会保障負担が低水準のアメリカより高く、高福祉の欧州諸国より低く推移してきた。しかし近年、日本の伸びは大きい。06年(リーマン・ショック前)からの増減では日本と欧州諸国との差は縮小している。

◇海外ではGDP比の指標が一般的

国民負担率を海外と比較するときは注意が必要だ。そもそも"国民負担率"という用語は、世界的に使われている言葉ではなく、日本独特の用語だ。海外ではGDP比でみた租税や社会保障負担の指標(GDP比の指標)を用いることが一般的だ。

国民所得とGDPには、大きく3つの違いがある。国民所得はGDP に対し(1)海外での日本人の所得を加える一方、国内の日本人以外の所得を除く。(2)設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く。(3)価格に上乗せされた消費税などの間接税を除く一方、値引きに使われる補助金を加える。

このうち、( 3)の間接税の税率は、特に影響が大きい。たとえGDPが同じでも、間接税の税率が高いと、国民所得は小さくなる。そのため、GDP比の指標に比べ、国民所得をベースとする国民負担率は高くなる。高間接税の欧州諸国は、国民負担率が高めに算出されやすくなるわけだ。

実際、GDP比の指標では、日本とドイツ、スウェーデン、フランスの差は縮小する。
GDP比の指標は、世界では一般的だが、分子と分母の両方に間接税が含まれているため、その影響があらわれにくい。国民所得ベースの国民負担率は、日本独特の指標だ。国際比較の際には、2つの指標を併用することが必要と言えるだろう。

◇実績が推計値から変化することもある

国民負担率を見る際は、実績が前年以前に示された実績見込みや見通しからどの程度変化しているかにも注意が必要だ。

実績見込みや見通しは推計値であり、前提によって変わる。23年度の実績は実績見込みと同じだったが、22年度の実績は実績見込みや見通しよりも高かった。
以上まとめると、日本と欧州諸国の国民負担率の差は今後さらに縮まっていく かもしれない。高齢化が進む日本では、国民負担率の動向について、引き続き、注意していく必要があると言えるだろう。
 
(参考) 「令和7年度の国民負担率を公表します」(財務省, 2025年3月5日)
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