4|公共性・公益性および真実性・相当性の抗弁
繰り返しとなるが、上述の通り、刑法では一定の事由が存在すると名誉毀損罪は成立しない。これと同様に、民事上でも、投稿Xが公益に係るものであって、真実である(または真実であることを信ずるに相当の理由がある)ときには責任は問われない。逆に言えば、偽情報を事実として指摘した場合は名誉毀損の責任が問われる。
より具体的には、事実を適示する投稿が人の社会的評価を低下させるものであっても、①その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合(公共性・公益性)であって、②適示された事実が真実であることが証明されたとき、または②´真実の証明がなくとも、その行為者においてその事実を信じるについて相当の理由があるときには、故意または過失がなく不法行為は成立しない(最判昭41年6月23日)とされている。
①公共性・公益性
まず公共性・公益性についてだが、公共性は通常「一般多数人の利害に関すること」と解されている
8。また公益目的については、その事実を適示した主たる動機が公益を図ることにあればよく、多少私益を図る動機が混入していても差支えがないとするのが通説とされる
9。なお、公益を図る目的については、「記事が公益目的に基づき執筆、掲載されたものと認められるかどうか否かは、記事の内容・文脈的外形に現れているところだけによって判断すべきことではなく、外形に現れていない実質的関係をも含めて、全体的に評価し判定すべき事項である」(東京地裁昭58年6月10日)とされ、投稿内容だけでなく、その背後関係も含めて判断される。
投稿Xが適示する事実は対象者である○○が具体的に描写されるパワハラ・セクハラに及んだことである。企業におけるパワハラ・セクハラ行為は、一般的には従業員がある程度存在する企業において、私人であってもその社会的生活において行われている
10ことから、原則としては公共性が認められると考えられる
11。また、投稿Xが○○に個人的な恨みを持ち、報復の目的に出たものであるような場合でない限り、従業員の共通の利益を確保するといった公益性が認められ、公益目的があるといってよいと考えられる。
②・②´真実相当性
つぎに上記②・②´にある通り、適示された事実が真実であるか、真実であると投稿者が信じるについて相当の理由がある場合(併せて真実相当性という)には、投稿Xは違法性を欠く。この真実相当性について、投稿者が何を根拠として投稿Xを行ったかは実際に調査(あるいは裁判)をしてみないとわからないことも多い。
ただ、公知の事実と言える場合、たとえば複数の大手メディアで報道されているような事実をもとにした投稿は真実相当性が認められることが多いであろう。他方、SNSの一アカウントだけが発信した情報に基づいた投稿は真実相当性を欠くと認定されることが多いであろう。この点、注意すべきはネット上で炎上している事件でも発信元がごく少数のアカウントであることも少なくない点である。このような場合、少数者が特定の対象者を故意に攻撃しているケースがあり、その場合、真実相当性が認められないだろう。この点、投稿Xが投稿Xそのものに事実を適示するのではなく、具体事実を適示する投稿Yを引用して批判している(リツイート機能)場合や掲示板であるnoteなどにリンクを貼ることでも同様の結論となる可能性がある(東京地裁平28年7月21日、東京地裁平26年12月24日)
12。
なお、先にあげた具体事例では、個人的な経験や知人からの噂話に基づくもののようにも思える。単なる噂話であれば真実相当性は認められないが、自身や複数の知人が実際に体験したなどの事情があれば真実相当性が認められるものと考えられる。
8 前掲注2 p63参照。
9 同上
10 前掲注2 p64では「特定の団体や限られた関係における表現行為については、当該団体の構成員にとって利害あるいは関心の対象となるべき事項であることをもって公共性を肯定し、また、当該団体の構成員全員の利益の適うことをもって公益目的を認めるという手法が多くみられる」とする。
11 逆に私人の私生活に関する事項は公共の利害に関する事実に該当しない。
12 なお、リンクを貼る場合に事実を適示したと認めなかった裁判例もある(東京地裁平22年6月30日)。
5――意見・論評の表明による名誉毀損