【推しの子】は、メディアミックス展開にとどまらず、さまざまな企業とのコラボレーションも積極的に行っている。昨年、その一環である「築地銀だこ」
3のコラボたこ焼きを買いに行ったときのこと。列に並んでいると、後ろから明るい声が聞こえてきた。
「アイドルだよ!アイドルのたこ焼きだよ!!」
振り返ると、幼稚園児くらいの女の子が、店頭のポスターに描かれた「アイ(星野アイ)」を指さしながら、父親にたこ焼きをねだっていた。その子にとって、ポスターの中のアイは【推しの子】の登場人物というよりも、YOASOBIの『アイドル』に登場する"かわいい女の子"として映っているようだった。その時、ふと作者の一人である横槍メンゴ氏のX(旧Twitter)の投稿を思い出した。
推しの子、予想外にお子様にも楽しんでいただけて大変に大変にありがたいのですが 掲載誌は青年誌ですしターゲット層的に過激描写もありますから親御さんのチェックやケアの元読んでいただけると安心だなあ4
【推しの子】は、ビジュアルや音楽といった親しみやすい要素が前面に出ていることもあり、子どもたちからも広く支持を集めている。キャラクターの可愛らしさや、楽曲『アイドル』の大ヒットは、幼稚園や保育園のお遊戯会などにも波及しているほどだ。しかし、本作は青年誌に掲載されており、ストーリーには芸能界の闇を描いた過激な表現も多く含まれる。だからこそ、子どもたちが触れている【推しの子】は、音楽やキャラクタービジュアルといった"デザインや表層の部分"であり、物語の本質とは異なるのだ。作者自身が「親のチェックのもとで」と呼びかけているのは、そうした表と裏のギャップを親がきちんと把握し、子どもに対して必要なケアをしてほしいというメッセージでもある。
この投稿は、2023年7月にアニメ第1期の放送が終了した頃に投稿されたものであり、当時すでに子どもたちの間でも高い人気を博していたことがうかがえる。それから約1年半が経過し、市場はさらに拡大。今では"子ども向け【推しの子】市場"と呼べるような動きも見られるようになった。たとえば、BOSS E・ZO FUKUOKAの6Fイベントホールで開催された、360°空間でマンガの世界に没入する展示「マンガダイブ『【推しの子】』スーパー・イマーシブライブ」では、2024年9月21日に小学生向けの「【推しの子】オリジナルペンライト工作ワークショップ」
5が行われた。この日は小学生の入場が無料、同伴の大人は有料という料金設定となっており、まさにこの日は小学生がメインの日だったといえる。
筆者が実際に訪れた「【推しの子】祭り in 西武園ゆうえんち」や、「有馬温泉×【推しの子】有馬温泉を盛り上げちゃおう! presented by JR東海」などのコラボイベントでも、いわゆるアニメファンだけでなく、家族連れの姿が多く見られた。楽曲に合わせてサイリウムを振る子どもたち、親の手を引きながらスタンプラリーに奔走する姿は、【推しの子】が"家族で楽しめるコンテンツ"として定着しつつあることを物語っている。中には、2024年7月に発売されたユニクロとのコラボTシャツ「UT」を着ている子どもたちの姿もあった。ユニクロ公式サイトでは、コラボUTのサイズ展開が100~160cmと、小さな子どもから小学生までを明確にターゲットにしていることがわかる
6。
また、集英社が小中学生向けに展開している「集英社みらい文庫」
7からは、【推しの子】のノベライズ版が出版されているほか、2024年9月2日にはテレビ東京系列の子ども向け番組『おはスタ』にて【推しの子】の特集が放送されるなど、小学生の日常的な会話の中でも自然に登場する"流行コンテンツ"として確固たる地位を築いている。