欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい

2025年03月17日

(伊藤 さゆり)

(高山 武士)

■要旨
 
  1. ユーロ圏の10-12月期の実質成長率は前期比0.2%(年率換算:0.9%)となり、7-9月期(前期比0.4%、年率1.7%)から減速した。ユーロ圏全体では内需(個人消費や投資)が相対的に強く輸出が弱含んだが、ドイツやフランスでは内需も振るわず、国ごとのバラツキも目立った。総じてみれば競争力低下という構造的な課題を抱えるなか、緩慢な回復が続いていると言える。
     
  2. 総合インフレ率、コアインフレ率ともに横ばい圏で推移しており、特にコアインフレ率は2%目標より高めの状況が続いている。ただし、基調的なインフレ率を押し上げていたサービスインフレや賃金上昇率には鎮静化の兆しも見られる。
     
  3. ECBは24年央から制限的な金融政策からの緩和に着手、最近はインフレの下振れリスクにも配慮して、3月会合まで5会合連続の利下げを実施した。政策金利(預金ファシリティ金利)はピークの4.0%から2.5%まで引き下げられた。
     
  4. 今後も消費を中心とした回復が見込まれるが、特に米国の関税政策に関連した不確実性は大きい。すでに発動された関税政策のみを前提とした成長率見通しは25年1.0%、26年1.3%、インフレ率見通しは25年2.2%、26年2.0%である(図表1・2)。また、ECBはこれまでの利下げの経済への影響を見極めるため、一時停止をはさみつつ政策金利を2.0%まで引き下げると予想する。
     
  5. 米国の関税政策が当面の大きなリスクとなる。現在、トランプ大統領が言及する政策はユーロ圏の成長率を押し下げるものが多く、成長率に対するリスクは下振れ方向と考えられる。関税政策はインフレ率に対するリスクでもあるが、上下双方の要因になり得る。現時点ではいずれのインフレリスクが大きいのかは評価し難い。
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・実体経済:緩慢な回復が継続
  ・景況感は改善に乏しい
  ・労働市場は良好だが、製造業では軟化
  ・物価・賃金:基調的なインフレ率にも鎮静化の兆し
  ・財政政策:財政スタンス緩和の動きが急進展
  ・実金融政策・金利:財政緩和観測から長期金利が上昇
2.経済・金融環境の見通し
  見通し:消費主導の緩やかな成長継続を想定、しかし不確実性は大きい
  リスク:米国の関税政策が当面の大きなリスク
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