あなたは職場の50代女性社員に仕事を期待していますか?~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(8)

2024年11月18日

(坊 美生子) 高齢化問題(全般)

1――はじめに

男女雇用機会均等法施行後、働く女性が増加し、総務省によると、正社員・正規職員として働く50代女性は2022年に全国で255万人となった(図表1、2)。過去35年で100万人以上の増加である。この世代の女性は、結婚・出産を機に退職するケースが主流だったため、同世代の男性の正社員・正規職員に比べれば、全国的にみても約4割の人数にとどまるが、組織ごとにみると、その後は経営合理化や少子化によって若年層の採用が抑えられてきたため、50代女性の構成割合がじわりと上昇している、というケースもあるのではないだろうか。

一方で、50代女性社員が組織の中で果たしている役割は、どのように位置づけられるだろうか。また上司は、50代女性社員にどのような役割を期待し、本人に伝えているだろうか。勿論、人事評価や役職は個人によって大きく異なるものだが、総じて、男性よりも管理職比率が低いため、役割が明確ではないケースや、本人に伝えていないケースもあるのではないだろうか。後述するように、女性社員が上司から期待されていると感じられれば、仕事への意欲が高まるという先行研究もあり、増えつつある「50代女性社員」に力を発揮してもらう上で、「上司からの期待」は外せないテーマである。

そこで本稿では、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~1(以下、「共同研究」)の結果などから、50代女性社員が、上司から期待されていると感じていることや、その違いによってキャリア意識にどのような違いがみられるか、といった点について報告する。
 
1 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326。

2――50代女性社員のうち上司に「期待されていない」と感じている人

2――50代女性社員のうち上司に「期待されていない」と感じている人が2割弱~共同研究の成果より~

まず筆者らの共同研究から、「上司から期待されていると感じていること(複数回答)」に関する50代女性の回答を抽出し、5歳階級ごとにまとめた結果が図表3である。

それによると、「50~54歳」と「55~59歳」のいずれにおいても、最多は「従来通りの業務の継続」(約3割)という"現状維持"への期待だった。これと肩を並べたのが、「仕事のスキルを上げること」や「仕事のパフォーマンスを上げること」といった"成長"への期待(各年齢階級で約3割)だった。3番目に多かったのは、「後輩や非正規社員への教育、指導」や「他の社員のサポート」といった"教育・指導"への期待だった(2割前後)となった。

一方、「期待されていない」と感じる割合はそれぞれ2割弱、「分からない」という回答も1割強から2割弱あった。「雑用」はいずれの年齢階級でも、5%前後だった。一方、「管理職への就任」という高い期待を感じていたのは5%前後にとどまった。

このような結果を見ると、50代女性社員のうち、成長を期待されているのは3割に過ぎないなど、上司からの期待は総じて、高いとは言えない。全く「期待されていない」と感じている女性が2割弱、「分からない」という女性が2割弱という結果からも、50代女性社員の役割が不明確な職場も多いことが示唆される。

3――上司からキャリアップや成長への期待を感じている女性

3――上司からキャリアップや成長への期待を感じている女性は組織への貢献意欲が強い

次に、同じく共同研究の成果から、50代女性社員が「上司から期待されていると感じること」と、今後の働き方の姿勢として「会社の業績アップに貢献したい」と回答した人のクロス分析をした結果が、図表4である。

これを見ると、50代女性社員全体では、「会社の業績アップに貢献したい」いう意欲を持っている人は9.6%だったのに対し、上司から「管理職への就任」や「総合職など、基幹的な職種への転換」などの"キャリアアップ"、「仕事のスキルを上げること」、「仕事のパフォーマンスを上げること」などの"成長"を期待されていると感じている女性は、業績アップへの貢献意欲が有意に高かった。逆に、「期待されていない」と感じている女性や、何を期待されているかが「分からない」と回答した女性は、業績アップへの貢献意欲が、全体よりも有意に低かった。

ただし、上司からのキャリアアップや成長への期待が高いから、女性社員本人の貢献意欲が高まるという可能性もあれば、もともと女性社員本人の貢献意欲が高いから、上司から、キャリアアップや成長を期待されている、という可能性も考えられる。そこで、4では先行研究のレビューより、この点を考察する。

4――上司からの期待はキャリア意識を向上させる可能性

4――上司からの期待はキャリア意識を向上させる可能性がある~先行研究による回帰分析より~

3で述べたように、共同研究の成果より、上司からの期待を感じている女性社員の方が、組織への貢献意欲が高いことが分かったが、「上司からの期待が高いこと」と「女性社員の貢献意欲が高いこと」は、どちらが要因で、どちらが結果か分からない。そこで、女性社員の仕事への意欲に与える要因を分析した先行研究を参照する。

公益財団法人「21世紀職業財団」が2017年、30歳~54歳の一般職または事務職の女性社員約2,200人を対象に行ったインターネット調査によると、本人がもともと持っているキャリア意識の違いをコントロールした上で、仕事への向上意欲に関する回帰分析を行った結果、女性社員が上司から「総合的な業務をすることを期待される場合」、「チームを率いることを期待される場合」、「少し難しい仕事を期待される場合」、「期待があいまいな場合」は、上司から期待されたことがない場合に比べて、組織への貢献意欲が高くなる確率が高いことが分かった2

つまり、上司が女性社員に対して、より高度な仕事をすることを期待し、本人に伝えた方が、本人の組織への貢献意欲が高まる可能性があると言える。
 
2 ただし21世紀職業財団の報告書によると、この分析では、学卒時の就業意識を変数に入れることで、もともと意欲が高い人であるか否かをコントロールしており、「意欲が高いから上司が期待をかける」という逆の因果をすべて排除することはできていない、としている。

5――終わりに

5――終わりに

はじめに述べたように、正社員として企業・団体で勤め続けてきた50代女性社員はじわりと増加している。それにも関わらず、2でみたように、彼女たちが職場で明確な役割を期待されているとは必ずしも言えない。その背景には、これまでの彼女たちの職務範囲が浅いため、今から異動させて、新しい仕事を覚えさせたり、研修を受講させて重要なポジションに配置させたりすることの負荷が高いからだという理由も考えられる3。しかし、本稿でみてきたように、まずは上司がキャリアアップや成長を期待し、それを本人に伝えることで、本人のキャリア意識が高まる可能性がある。逆に、社員一人ひとりに成長と成果を期待しなければ、企業は「生産性向上」という目標をどうやって実現できるのだろうか。

国の高齢者雇用政策もあって、多くの50代女性社員が、定年や継続雇用の上限など、高齢期まで働き続けると予想される4。「もうすぐ定年だから」と言って、企業が役割を付与しないまま漫然と雇用し続け、女性社員自身も「現状維持」の姿勢で働き続けていても、国の政策の影響で、定年が延長されるかもしれない。それでは、高齢者雇用が進めば進むほど、企業の生産性が低下することになる。50代になっても、60代になっても、管理職であってもなくても、それぞれの社員が、組織で働く最後の日まで、モチベーションを維持して力を発揮し、組織に貢献してもらえるためには、まずは企業側が中高年社員の役割を明確にし、上司から本人に伝えることが最初の一歩となるのではないだろうか。

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子(ぼう みおこ)

研究領域:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴

【職歴】
 2002年 読売新聞大阪本社入社
 2017年 ニッセイ基礎研究所入社

【委員活動】
 2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
 2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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