ホテル市況は好調持続。物流市場は空室率が高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第3四半期

2024年11月11日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年第2四半期はシングルタイプが+4.9%、コンパクトタイプが+3.4%、ファミリータイプが+1.1%となった(図表-12)。

総務省によると、2024年1-9月累計の東京23区の転入超過数は+ 60,311人(前年同期比+16%)となった。都市部への人口流入を背景に賃料上昇が継続している。
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費の拡大を受けて施設売上が増加している。商業動態統計などによると、2024年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+3.8%、スーパーが+1.8%、コンビニエンスストアが+0.4%となった。9月単月では、百貨店+2.2%(31カ月連続プラス)、スーパー+1.6%(2カ月連続プラス)、コンビニ+0.7%(10カ月連続プラス)となっている(図表-13)。
ホテル市場は、インバウンド需要が牽引し宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回って推移している。宿泊旅行統計調査によると、2024年7-9月累計の延べ宿泊者数は2019年同期比で+7.3%増加し、このうち日本人が+0.5%、外国人が+39.6%となった(図表-14)。また、STR社によると、9月のホテルRevPARは2019年同月比で全国が+28%、東京が+33%、大阪が+35%と好調が続いている。
物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受けて空室率が高止まりしている。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年9月末)は10.1%(前期比+0.4%)に上昇し、約14年ぶりに10%を超えた (図表-15)。新規供給物件が空室を残して竣工したことや、既存の築浅物件でも空室消化に時間を要していること等から空室率が上昇した。また、近畿圏の空室率は4.0%(前期比+0.3%)に上昇した。立地やスペックで劣る物件では空室が長引く傾向にあるとのことである。

また、一五不動産情報サービスによると、2024年7月の東京圏の募集賃料は4,820円/月坪(前期比▲0.8%)となり、4四半期ぶりに下落した。

4.J -REIT(不動産投信)市場

4.J -REIT(不動産投信)市場

2024年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比+0.1%上昇した。セクター別では、オフィスが+3.2%、住宅が▲2.1%、商業・物流等が▲2.1%となり、オフィスセクターが堅調であった(図表-16)。9月末時点のバリュエーションは、純資産12.1兆円に保有物件の含み益5.6兆円を加えた17.7兆円に対して時価総額は14.9兆円でNAV倍率6は0.84倍、分配金利回りは4.8%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.9%となっている。
J-REITによる第3四半期の物件取得額は3,660億円(前年同期比+22.6%)、1-9月累計では1兆1,133億円(同+22.9%)となり昨年1年間の取得額(1兆1,043億円)を上回った(図表-17)。アセットタイプ別では、ホテル(28%)・オフィスビル(23%)・住宅(23%)・物流施設(17%)・商業施設(5%)・底地ほか(4%)となり、ホテルは好調なインバウンド需要を背景に今後も収益拡大が期待できるアセットとして取得意欲が高く、年間取得額は既に過去最大の規模となっている(16年2,808億円→24年1-9月3,101億円)。
 
6 市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

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金融研究部   上席研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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