不適切な「No.1表示」を生み出す構造的背景と今後の道筋-デジタル時代の「消費者の脆弱性」に向き合う試金石となるか

2024年10月30日

(小口 裕) 消費者行動

■要旨

改正景品表示法が、2024年10月1日から施行された。改正の主なトピックは、優良誤認表示や有利誤認表示に対する直罰(100万円以下の罰金)の新設と、適格消費者団体による資料開示要請規定の導入である。
 
その直前の9月26日に消費者庁から公表されたのが、「No.1表示に関する実態調査の報告書」である。
 
No.1表示とは、事業者が自社の優良性や有利性を強調するため、広告などで「売上No.1」や「安さ第1位」などの表現を用いる表示のことを指す。しかし、その表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、消費者に優良誤認表示や有利誤認表示を与える不当表示となり、景品表示法に抵触する可能性がある。
 
消費者庁によれば、2023年度には健康食品や注文住宅、太陽光発電などを含む計14件のNo.1表示に関連する措置命令が発出され、前年比で急増している。
 
この問題の背景には、広告主と広告会社・代理店、調査会社といった複数のプレーヤーが関わるという業界構造や商流が見え隠れする。No.1表示のための調査に直接携わるのは調査会社であるが、消費者庁の報告によれば、広告主側が「(広告掲出のために)調査会社が行った調査設計を深く理解していない」という現状も浮かび上がる。
 
不適切なNo.1表示は持続可能でサステナブルな消費を妨げる要因となりかねない。「No.1表示」に関する諸問題への対処は、デジタル消費社会において消費者が直面する脆弱性に対して、大きな問題意識を投げかけているとも言えるだろう。

■目次

1――はじめに~改正景品表示法施行とNo.1表示問題
  1|10月1日 改正景品表示法施行
   ~悪質な優良誤認・有利誤認に対する罰則が強化~
  2|No.1表示問題とは何か
   ~持続可能でサステナブルな消費を妨げるリスク~ 
2――No.1表示等の広告物の実態~消費者庁「No.1表示に関する実態調査報告書」より~
  1|No.1表示等の広告物の実態
   ~「顧客満足度No.1」「口コミ人気No.1」「使ってみたいNo.1」など~
  2|No.1表示等に対する消費者の受け止め方
   ~約半数が「購入意思決定に影響がある」と回答~
3――No.1表示の健全化に向けた動き
 ~広告主・広告会社・代理店・調査会社、各プレーヤーの思惑~
  1|調査会社の動向
   ~健全化に向けて動く日本マーケティング・リサーチ協会と非会員社の存在~
  2|広告主企業の動向
   ~調査の詳細まで把握している広告主は一部に留まる~ 
4――今後に向けて~デジタル時代の消費者の脆弱性に向き合う試金石に~

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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