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曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その7)-サイクロイド・トロコイド(その応用)-
2024年07月18日
(中村 亮一)
保険計理
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スピログラフ
「
スピログラフ(
Spirograph
)
」は、曲線を生成することによって幾何学模様を描くための定規である。玩具バージョンが良く知られているが、これは英国のエンジニアであるデニス・フィッシャー(Denys Fisher)によって開発され、1965年に最初に販売されている。
各種のパターンがあるが、一般的なものとしては、プラスチック製の板に歯車形状の穴が空けられており、さらにその穴よりも小さいいくつかのプラスチックのリング(その円周が歯車形状になっている)が付与されたセットとなっている。
穴(これが定円になる)の内側に小さい歯車(これが動円になる)を付け、歯車に空けられた小さな穴(これが定点になる)にボールペン等の筆記具の先を通して、筆記具で歯車を回す様にして動かすことで、その軌跡がハイポトロコイド曲線となる。
また、小さい歯車の2つのうち、片方を固定し、もう片方で固定した歯車の外側に描くことで、その軌跡がエピトロコイド曲線となる。
歯車の大きさや穴の位置等によって曲線の形や大きさが変化し、それらを組み合わせることによって、様々な模様を描くことができる。
子供のころにスピログラフで遊んだ経験があり、そこで形成される各種の曲線に強い興味・関心を抱いた方もいらっしゃるかもしれない。実は、これにトロコイドが現れていたということで、興味・関心を新たにされるかもしれない。
(参考)2地点間の異動ルート(地下トンネル)
数学を好きな皆さんであれば、国際数学オリンピックの存在は承知しているものと思われるが、これは国際科学オリンピックの1種目となっている。物理に対しても同様に、国際物理オリンピックが開催されている。その日本代表を選考するための大会として、「全国物理コンテスト物理チャレンジ」が開催されている。
以下は、その「物理チャレンジ2014 理論問題 第1問」に基づいている
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。
地上の2つ地点AとBの間を結ぶトンネルの中を重力の助けを借りて運動する物体を考える。トンネルと物体の間の摩擦はなく、空気抵抗等も働かないものとする。また、エネルギー保存の原則が成り立っているものとする。この時、高い方の地点Aを初速度0で出発して、地点Bに到達するまでの時間が最も短くなる曲線軌道は、(
前々回の研究員の眼
で述べたように)サイクロイド曲線ということになる。
この問題では、AB間の距離をL、重力加速度をg(=9.8m/s
2
)として、以下の2つのルートを考えた場合(さらには、Lが500㎞(東京‐大阪間の距離にほぼ等しい)とした場合)に、その最小所要時間T
m
とその時のトンネルの深さhの解答を求めている。
結果は、以下の通りとなっている。
ケースⅠの場合
L=500㎞ のとき h=125km T
m
=639秒(=10.65分)
ケース2の場合
L=500㎞ のとき h=159km T
m
=566秒(=9.43分)
このように、東京-大阪間をほぼ10分程度で移動できることになる(因みに、リニア新幹線では、東京‐大阪間が67分と想定されている)。
これだと余り速さを感じないかもしれないが、東京-ロンドン間で考えると、地表間距離が約10,860km、地球の円周(赤道周長)が約4万kmであることから、直線距離にすると約9,470kmとなり、結果は約41分となる。現在の飛行機でのフライト時間が(ロシア領空を迂回しているルートで)約14時間~約15時間
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(以前のロシア領空を飛行していたルートでは約12時間~約13時間)となっているので、かなり短縮される形になる。
ただし、これらの値は、摩擦や抵抗がないとした場合で、しかも地球の相当な深度まで落下するルートということなので、非現実的なものであり、あくまでも理論的なものでしかない。
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具体的には、以下のWebサイトから、問題と解答を入手することができる。
2014_Theory_QuestionBook_Final.pdf (jpho.jp)
2014_Theory_Solution_Final.pdf (jpho.jp)
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北回りや南回りのルートを飛行した場合で、偏西風の影響等で、行きと帰りでも異なる。
最後に
以上、今回は、「サイクロイド曲線」等について、それが社会でどのように役立っているのかについて報告してきた。
このように、サイクロイド曲線は実に多くの分野において使用されており、現代における各種の技術において欠かせないものになっている。上では述べていないが、その最速降下性から、自重落下移送(自らの重力で、ものを低いところに移送)の場合に、サイクロイド曲線が使用されることにもなっている。一方で、宇宙の膨張や収縮、対流圏における音の伝播等の物理現象においても、サイクロイド運動が観測されるようだ。
今回はあくまでも応用例のいくつかについて、その概要を述べてきたが、それでも日常的にみかけるものの中に、サイクロイド曲線の等時性や最速降下性を利用する形で、サイクロイド曲線が現れてきていることを、一定程度紹介できたのではないかと思っている。
今回紹介したもの以外にも、何らかの機会に、こういうところでもサイクロイド曲線が使用されているかもしれない、と思わぬ発見をすることがあるかもしれない。常に、そうした問題意識をどこかに持っていると、日常生活が興味深い(?)ものになるかもしれない。
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中村 亮一
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