「広島オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

2024年07月09日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

広島のオフィス市場は、コロナ禍以降、空室率は上昇基調で推移し、成約賃料は弱含んでいたが、足もとで改善傾向にある。現在、「紙屋町・八丁堀地区」や「広島駅周辺地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中であり、今後のオフィス市場への影響が注目される。本稿では、広島のオフィス市況を概観した上で、2028年までの賃料予測を行う。

2.広島オフィス市場の現況

2.広島オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
広島市のオフィス空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、上昇基調で推移していたが、2024年に入り改善に向かっている。三鬼商事によると、2024年5月時点の空室率は5.4%(前年比▲1.0ppt)に低下した(図表-1)。

また、需給バランスの改善に伴い、成約賃料も回復している。ニッセイ基礎研究所の推計によれば、広島市の成約賃料は、2021年上期をピークに下落基調で推移していたが、2023年下期は前年比+4.1%となった(図表-2)。
賃料と空室率の関係を表した広島市の賃料サイクル1は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面から「空室率上昇・賃料上昇」の局面を経て、2022年下期からは「空室率上昇・賃料下落」の局面へ移行し、足もとでは再び空室率が低下している(図表-3)。
 
1 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.需給動向
三鬼商事によると、広島市における2023年末の賃貸可能面積(総供給面積)は25.7万坪となり、前年末から▲0.1万坪減少した。これに対して、賃貸面積(総需要面積)は24.2万坪(前年比±0.0万坪)となった。この結果、広島ビジネス地区の空室面積は1.5万坪となり、前年末から▲0.1万坪減少した。(図表-4、5)。

3.広島オフィス市場の見通し

3.広島オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し
(1)オフィスワーカーの見通し
 総務省「労働力調査」によれば、2023年の広島県の就業者数は144.9万人(前年比+0.2万人)となり、3年ぶりに増加した(図表-6)。

また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、広島市の生産年齢人口は減少傾向で推移しており、2023年は72.2万人(前年比▲0.3%)となった(図表-7)。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によれば、広島市の生産年齢人口の減少は今後も継続し、2025年は71.8 万人(2020年対比▲2.0%)、2030年は70.2万人(同▲4.2%)となる見通しである(図表-8)。
続いて、広島のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「中国財務局」の管轄下5県(広島県・岡山県・山口県・鳥取県・島根県)における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI2」(中国財務局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移しており、2024年第2四半期は「▲4.7」と弱含みの動きとなっている(図表-9)。

また、「従業員数判断BSI3」(中国財務局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+13.1」(2020年第1四半期)から「▲3.9」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+20.0」となり、人手不足感が強まっている(図表-10)。
広島県「県内企業への経営に関するアンケート調査」(2024 年5月実施)によれば、広島県内に事業所を置く企業に「1年前と比較した令和6年3月の売上高について」を尋ねたところ、「減少(40%)」との回答が「増加(38%)」との回答をやや上回った。

また、帝国データバンク「広島県2024 年度の業績見通しに関する企業の意識調査」によれば、業績見通し(前年度との比較)について、「増収増益」との回答が26%を占めて最多であったものの、次いで、「減収減益」との回答が24%を占めた。

広島県の就業者数は3年ぶりに増加したものの、生産年齢人口の減少は今後も続く見通しである。また、人手不足感が強い一方、コロナ禍からの企業活動の回復は鈍い傾向にある。以上のことを勘案すると、広島市の「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。
 
2 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
3 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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