2023年度生命保険会社決算の概要(速報)

2024年07月08日

(安井 義浩) 保険計理

2|基礎利益は大きく増加
そうした中、2023年度の基礎利益は20,802億円、対前年度35.0%増加となった(図表-5)。うち利差益は7,269億円、4.0%増加となった。

危険差益・費差益等からなる保険関係収支は13,533億円、60.7%の大幅増加となった。
 
3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかる。

危険差益は、63.7%増加(前年度は▲45.7%減少)となった。2023年度の増加は、2022年度の新型コロナによる給付金支払いがなくなったことによるもので、これで平年ベースに戻ったと考えられる。
平年ベースの一般的な動向としては、保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる。一方、第三分野商品(医療保険)についても、新契約や保有契約の増加も落ち着いてきており、販売当初の選択効果が次第に薄れてくるのではないか(=危険差益の減少)とも考えられるが、詳細は開示されておらず推測の域をでない。

費差益については、2023年度にはわずかに増加したものの、かつての規模や危険差・利差の水準からすると、費差はほぼないといっていい水準である。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ、すなわち保険料の値上げを緩和するために逆にセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にあると考えられる。
3|うち利差益も増加
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-7、8)。

これらの表の中の「基礎利回り」とは、基礎利益のうち、資産運用損益が貢献する部分の利回り換算であり、主に債券利息や株式配当金などの収入からなる(ヘッジコストもここで控除する算出ルールとなっている。)。これを、契約者に保証している利率(予定利率)と比べて、上回る場合に利差益と呼び、下回る場合は利差損といってもいいが、一般には逆ざやと呼ぶ。 
 
2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2023年度は7,269億円へと増加した(なお、一部の会社ではまだ逆ざや)。
 
多くの会社で円安の恩恵をうけるなどして、利息配当金収入は増加したが、ヘッジコストが高止まりしているようで、基礎利回りはむしろ低下している。

運用資産の中核である国内債券に関しては、金利がこのまま徐々にでも上がってくれば、負債に適した投資対象として復活してくるので、今後期待が持てるところだろう。

その一方で、新型コロナ禍からの経済環境の回復もあって、株式配当金や投資信託の分配金などの増加は、基礎利回りを支える有力な収入となっていると推測される。
 
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
 
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存しているのがここ数年の現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。2024年度の予想としては、危険差も、利差も減少ないし横ばいとしている会社が多い。
4|当期利益は増加~引き続き内部留保の割合は高いが、配当金額も増加
次に当期利益の動きをみる(図表-9)。

基礎利益(①)は大幅に増加、キャピタル損益(②+③)は合計で減少し、その合計で21,478億円と対前年度+3,651億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金の繰入額であり、9社中8社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっている。

これは逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額積み増し分である。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。
 
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より+4,497億円増加して15,853億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、18,875億円(A')と前年度より+3,208億円増加している。

さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加している(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は12,492億円と、これも前年度より+2,253億円増加している。

一方、配当であるが、6,382億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなり、対前年955億円増加している。

このような見方をすれば、2023年度は「実質的な利益」の66%が内部留保に、残り34%が契約者への配当にまわっているとみることができ、利益が増加した分、引き続き内部留保の充実も着実に行われている一方で、配当も増加し例年並みには配当へも配分されている。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方として区別する必要があろうが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、こうした表においては無視した。)

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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