「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

2024年06月21日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

福岡のオフィス市場は、大規模ビルの竣工に伴い空室率が一時上昇したものの、立地改善や建物設備のグレートアップを図るオフィス需要に支えられて、空室が順調に消化されるなか、成約賃料も安定的に推移している。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2028年までの賃料予測を行う。

2.福岡オフィス市場の現況

2.福岡オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、福岡市の空室率(2024年6月時点)は、4.6%(前年比▲0.4ppt)となった(図表-1)。空室率は、「福岡大名ガーデンシティ」などの大規模ビルの竣工に伴い一時上昇したが、その後は人材確保や従業員満足度の向上などを目的とした立地改善や建物設備のグレートアップを図る移転需要に支えられて、改善している。

福岡市の空室率を規模1別にみると、「中型7.1%(前年比+0.5ppt)」が上昇する一方、「大規模3.9%(同▲0.6ppt)」、「大型3.6%(同▲0.9ppt))」、「小型6.3%(同▲0.6ppt)」は低下した(図表-2)。
空室率が改善に向かうなか、成約賃料は安定的に推移している。2023年下期の福岡市の成約賃料は、前期比▲3.1%、前年比+1.8%となった(図表-3)。
2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル2は、2012 年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年下期以降「空室率上昇・賃料上昇」局面を経て、現在は「空室率上昇・賃料下落」の局面に向かいつつある(図表-5)。
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、「福岡大名ガーデンシティ」等、大型ビルが竣工したことに伴い、72.5万坪(2022年末)から74.0万坪(2023年末)へ+1.5万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、69.3万坪(2022年末)から70.2万坪(2023年末)へ+0.9万坪増加した。この結果、2023年末の空室面積は、前年比+0.7万坪増加の3.8万坪となった(図表-6、図表-7)。
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2023年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「博多駅前地区(23.9%)」で、次いで「天神地区(20.3%)」、「博多駅東・駅南地区(16.3%)」、「祇園・呉服町地区(15.9%)」、「薬院・渡辺通地区(11.9%)」、「赤坂・大名地区(11.7%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、建替えに伴う滅失等により「天神地区」(前年比▲0.9万坪)で減少したが、新規供給のあった「赤坂・大名地区」(同+0.9万坪)や「祇園・呉服町地区」(同+0.9万坪)等で増加し、福岡ビジネス地区全体で+1.5万坪増加した。

賃貸面積は、「天神地区」を除く全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体で+0.9万坪増加し、結果として、空室面積は+0.7万坪の増加となった(図表-9)。
エリア別の空室率(2024年5月時点)は、「赤坂・大名地区」が10.2%(前年比+0.2ppt)、「祇園・呉服町地区」が8.3%(同+0.5ppt)、「博多駅東・駅南地区」が5.6%(同+0.4ppt)、「薬院・渡辺通地区」が2.5%(同+0.5ppt)に上昇した一方、「博多駅前地区」が4.2%(前年比同▲1.9ppt)、「天神地区」が3.4%(同▲0.6ppt)に低下した(図表-10左図)。

また、募集賃料は、「天神地区」を除く全てのエリアにおいて上昇基調で推移している。特に、「薬院・渡辺通地区」(前年比+3.3%)や「赤坂・大名地区」(前年比+3.1%)で大きく上昇した(図表-10右図)。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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