これは、従来の疑似恋愛ビジネスの様相を持つホスト遊びの様に自身の担当(指名しているホスト)をNo.1にしたいが故に大金を支出する顧客と、その支えを受けるホストとの共依存の関係に似ているのかもしれない。ホストへの消費も他の客の存在が消費に拍車をかけている点も同様である。最近では、ホストのデコレーショントラックが繁華街を走っていたり、ホスト自身がSNSを活用しファンを獲得しているなど、ホストのアイドル化やインフルエンサー化が起きている。従来ならば、ホストクラブは興味がある人しか入店しないし、そのような繁華街に足を運ばない限りホストという文化そのもの(店構えや掲げられた写真や広告などを含めて)に触れることはなかった。ある意味その施設に「興味を持っている人」と「そうでない人」とでゾーニングできていたわけである。しかし、現在では、お店に行かないと消費者が接点を持つことができなかった「水商売」というクローズドな世界がTikTokやその他SNSが新たな接点となり、ホストの敷居を大きく下げたわけだ。2023年10月時点で新宿区歌舞伎町ではおよそ300店舗のホストクラブが営業しており、ここ4年間で30~40店舗は増え、空前のホストバブルとも言われている。ホスト業界の華やかさや、数億円稼ぐキャストなどホスト市場がコンテンツとして若者のスマホに表示され消費されているのだ。
歌舞伎町の社会学に詳しいライター佐々木チワワが言及するように、ホストクラブは接客業としてのパフォーマンスを有閑階級の女性が買う、大人の社交場として閉じられている空間であったが
13、ホストクラブがカジュアル化したことにより、推し活のように推しキャストを見出して、その人に貢ぐためにお金を稼いで応援する若者も増えている。疑似恋愛を楽しむ者もいれば、そのキャストを店でナンバー1にするといったように、自分の推しのホストを輝かせることに躍起になる客も多く、ある意味「ファンとアイドル」の関係のような推し活に類する目的でホストクラブに通うものもいる。メジャーなアイドルよりも距離が近いことが「自分が応援しなくては」という幻想を生みやすいのかもしれない。
一方で、若年層の客が増えたことで支払い能力に関する問題が表面化しているのも事実だ。ホストクラブには女性客が飲食代を「ツケ払い」にする「売り掛け」というシステムが存在する。本来「ツケ払い」は店側に対して女性が負う「借金」を指すが、ホストクラブの「売掛金」の仕組みにおいては、女性に代わってホストがその借金を肩代わりする形となっている。店側からすれば入る収益は変わらないため、店側は女性の支払い能力を超えてでも利益を上げようとし、それを回収できるかどうかはホストと客の問題となるわけだ。また、営業での支払いに留まらず、個人的な金銭のやりとりや経済的支援が生まれるなど、依存性が増すことで見えない支出も増えていく。その資金を工面するために、闇バイトや風俗店で働く者も多く、中にはそれを前提に営業している悪質なホストクラブも存在するようだ。ホストが女性に直接仕事を斡旋すると、罪に問われるためスカウトグループに依頼し、返済能力のない客にそのような仕事をさせ、その女性が働けば働くほど、見返りとしてそのスカウトに報酬が与えられるというシステムだ。ある意味そのスカウトにとってはその女性客を働かせれば、働かせるだけ利益を得ることができるため、ホストクラブに通わせて、さらなる売掛金を作らせ、その業界から抜け出せないようにしていくようだ。人によっては薬物を使用させながら女性に働かせ続けることもあるようだ。
ホストに限らず、水商売や性産業、パパ活や売春などをテーマにした漫画やドラマがヒットしたことや、SNSでそのような業界を華美に取り扱った情報を投稿する者もいる。人によっては自身がその様な体験を通して不幸になっているということを美化してコンテンツ化する者もいる。そのようなコンテンツ自体が悪いとは言い切れないが、今までゾーニングされていた成人向けコンテンツや産業がフィルターもなく、若年層の眼に留まってしまっていることは大きな問題であると筆者は考える。
また、水商売や性産業などで実際に働く者による、高額な給与が稼げる事や自身の煌びやかな生活がSNSに投稿されることも多く、そのような際立った光の部分が若年層の眼に触れる事や、若者に影響力のあるファッションショーに水商売や性産業で働く女性が参加したり、ある種のインフルエンサーとして若者の向けのコンテンツに登場することも多く、情報を取得する側が意識しない限り、成人向けコンテンツとのゾーニングは不可能に近い。言い換えれば高校生、中学生、延いては小学生でさえ、SNSやYouTubeを開けば、常にそのようなコンテンツとの接点が生まれる可能性(リスク)があるわけである
14。
13 週刊ポスト コロナ禍で空前のホストバブル 歌舞伎町新記録「年5.2億円」売上のホストが誕生 2022年3月11日号
14 パパ活や売春を含めた自身の身を売ることで金銭を受け取る行為でさえ、カジュアルに、華やかに、手軽にお金を稼ぐ手段として投稿されており、そのような投稿から、短時間でまとまったお金を稼ぎたい、お小遣いが足りない、といった問題をあたかも簡単に解消できる手段のように若者が捉えかねないのも問題だ。
5――未成年においては