「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

2024年05月24日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

名古屋のオフィス市場は、大規模ビルの竣工等に伴い新規供給量が増加するなか、立地改善や設備のグレートアップを図るオフィス需要も増えており、空室率は概ね横ばいで推移し、成約賃料は上昇した。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2028年までの賃料予測を行う。

2.名古屋オフィス市場の現況

2.名古屋オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2024年4月時点)は、4.9%(前年比+0.1ppt)となった(図表-1)。「中日ビル」などの大規模ビルが竣工し新規供給量が増加する一方、人材確保や従業員満足度の向上などを目的に、立地改善や建物設備のグレートアップを図る移転需要が増えており、空室率は前年と同水準に留まった。

空室率をビルの規模別1にみると、「大規模4.9%(前年比+0.1ppt)」と「中型5.6%(同+0.5ppt)」が上昇した一方で、「大型4.3%(同▲0.4ppt)」と「小型4.5%(同▲0.5ppt)」は低下した(図表-2)。
空室率が概ね横這いで推移するなか、成約賃料は上昇している。2023年下期の名古屋市の成約賃料は、前期比+3.8%、前年比+4.7%となった(図表-3)。
2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020年上期を起点に「空室率上昇・賃料上昇」局面へと移行している(図表-5)。
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2  賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、98.3万坪(2022年末)から100.4万坪(2023年末)へと+2.1万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、93.0万坪(2022年末)から94.9万坪(2023年末)へと+1.9万坪増加した。この結果、2023年末の名古屋ビジネス地区の空室面積は5.5万坪(前年比+0.2万坪)となった(図表-6、図表-7)。
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2023年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「名駅地区(37.4%)」で、次いで「伏見地区(26.6%)」、「栄地区(26.5%)」、「丸の内地区(9.5%)」の順となっている(図表-8)。

エリア別の賃貸可能面積(増減)をみると、「名駅地区」(前年比+1.0万坪)や「栄地区」(同+1.0万坪)などが増加し、計+2.1万坪の増加となった(図表-9)。賃貸面積は、「栄地区」(同+0.8万坪)や「名駅地区」(同+0.8万坪)などが増加した結果、空室面積は計+0.2万坪増加した。
名古屋市のエリア別の空室率(2024年4月末)は、「丸の内地区7.7%(前年比+1.9ppt)」と「栄地区4.3%(同+0.5ppt)」が上昇した一方、「伏見地区6.3%(同▲0.6ppt)」と「名駅地区5.3%(同▲0.4ppt)」は低下した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は全ての地区で上昇し、「伏見地区(前年比+2.4%)」の上昇率がやや大きくなっている(図表-10右図)。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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