2024・2025年度経済見通し(24年5月)

2024年05月17日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.2024年1-3月期は前期比年率▲2.0%のマイナス成長

2024年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲2.0%)と2四半期ぶりのマイナスとなった。

公的需要は増加したが、物価高の下押しが続く中、不正問題発覚による生産・出荷停止で自動車販売が大きく落ち込んだことから、民間消費が前期比▲0.7%と4四半期連続で減少し、能登半島地震や自動車不正問題の影響などから設備投資も前期比▲0.8%と2四半期ぶりに減少した。輸出が前期比▲5.0%の減少となり、輸入の減少幅(同▲3.4%)を上回ったことから、外需も前期比・寄与度▲0.3%(年率▲1.4%)と成長率の押し下げ要因となった。自動車不正問題の悪影響は民間消費、設備投資、輸出と広範囲に及んだ。

2023年度の実質GDPは前年比1.2%(2022年度は1.6%)、名目GDPは前年比5.3%(2022年度は2.4%)といずれも3年連続のプラス成長となった。名目GDP成長率は1991年度(5.3%)1以来、32年ぶりの高さとなった。

2023年度の実質GDPは3年連続のプラス成長となったが、年度内成長率(2023年1-3月期から2024年1-3月期までの伸び率)は▲0.4%のマイナスとなった。日本経済は2023年度を通して停滞が続いたと判断される。
 
1 2015年基準支出側GDP系列簡易遡及による
(輸出は緩やかな持ち直しへ)
輸出は低迷が続いてきたが、ここにきて下げ止まりの兆しも見られる。世界の貿易量は2022年10-12月期から前年比で減少が続いているが、このところ減少ペースは緩やかとなっている。
輸出の先行きを左右する海外経済を展望すると、米国は2023年の実質GDP成長率が2.5%となり、2022年の1.9%から加速したが、累積的な金融引き締めの影響もあり、2024年が2.3%、2025年が1.6%と減速が続くことが予想される。2023年の実質GDPが前年比0.4%とほぼゼロ成長にとどまったユーロ圏は、インフレの落ち着きなどから徐々に持ち直すものの、力強い回復は期待できないだろう。また、2023年の中国の実質GDP成長率はゼロコロナ政策終了の影響で2022年の3.0%から5.2%へ加速したが、不動産市場低迷の影響などから2024年が4.8%、2025年が4.3%と減速傾向が続くと予想している。総じてみれば、今回の予測期間である2025年度まで海外経済は緩やかに回復するものの、成長率は低水準にとどまることを想定している。
一方、グローバルなIT関連財の調整に目処がついてきたことは明るい材料だ。世界半導体売上高は2019年夏場以降、前年比で減少が続いていたが、2023年春頃に底打ちした後、足もとでは前年比で二桁の増加となっている。また、大幅な悪化が続いていた国内の電子部品・デバイスの出荷・在庫バランス(出荷・前年比-在庫・前年比)は2023年7-9月期に8四半期ぶりにプラスに転じた後、プラス幅の拡大傾向が続いている。海外経済の低成長が続くため、輸出の伸びが大きく加速することは見込めないが、IT関連財を中心に持ち直しの動きが続くことが予想される。GDP統計の財貨・サービスの輸出は2024年度が前年比3.4%、2025年度が同3.3%と緩やかな増加が続くと予想する。
(再進行する円安と高止まりする原油価格の影響)
米国が高インフレに対処するために政策金利の引き上げを開始した2022年以降、日米金利差の拡大を背景に円安・ドル高が継続している。米国の利上げが停止された2023年後半以降、円安の動きはいったん止まったが、インフレ率の高止まりなどから米国の利下げ観測が後退したことを受けて、2024年4月以降は再び円安が進行し、足もとでは1ドル=150円台半ばで推移している。
円安は輸出の増加を通じて製造業を中心に企業収益の改善をもたらす。また、円安に伴う輸入物価の上昇は、当初は消費者物価の上昇に伴う実質所得の低下を通じて家計にマイナスの影響を及ぼすが、その後は企業収益の改善が雇用、賃金に波及し、家計も恩恵を受けるようになることが一般的である。

一方、原油価格(WTI)はこのところ落ち着いた動きとなっており、1バレル=80ドル前後で推移しているが、コロナ禍前の水準(2019年平均は1バレル=50ドル台後半)に比べれば高止まりしている。原油価格の上昇は交易条件の悪化に伴う海外への所得流出を通じて、企業収益の下押し、家計の実質購買力の低下をもたらす。
今回の物価上昇局面において、企業は輸入物価上昇に伴うコスト増を十分に価格転嫁できたため、円安・原油高によるマイナスは緩和された。直近(2023年10-12月期)の経常利益はコロナ禍前(2019年平均)と比べて28.4%高い水準となっている。賃上げ率の高まりを反映し人件費要因は若干の押し下げ要因となっているが、円安による輸出金額の増加や国内への価格転嫁により、コロナ禍でいったん落ち込んだ売上高が大幅に増加したことが収益を大きく押し上げている(売上高要因)。また、円安、原油高により変動費は増加しているものの、十分な価格転嫁によって売上高変動率が低下していることも収益の押し上げ要因となっている(変動費要因)。

一方、家計部門については、2024年1-3月期の名目雇用者報酬はコロナ禍前(2019年平均)から6.1%増加したが、その間に家計消費デフレーターが10.4%上昇したため、実質雇用者報酬は▲4.3%減少している。企業部門は円安のメリットが円安・原油高のデメリットを上回っているのに対し、家計部門は円安・原油高のデメリットが円安のメリットを上回っている。
(2024年の春闘賃上げ率は33年ぶりの5%台へ
連合が5/8に公表した「2024春季生活闘争 第5回回答集計結果」によれば、2024年の平均賃上げ率は5.17%、ベースアップに相当する「賃上げ分」は3.57%となった。賃上げ率が相対的に低い中小企業は妥結時期が遅いため、7月に予定されている最終集計結果では全体の水準は若干下がることが見込まれるが、最終集計でも5%を上回れば1991年(5.66%)以来33年ぶりの高水準となる。
名目賃金を消費者物価で割り引いた実質賃金上昇率は2022年4月から2024年3月まで、24ヵ月連続で前年比マイナスとなっている。消費者物価上昇率の高止まりが続いていることに加え、名目賃金の伸び悩みが続いているためである。2023年度の名目賃金上昇率は前年比1.3%と2022年度の同1.9%から伸びが鈍化した。2023年の春闘でベースアップが前年よりも1%以上高まったにもかかわらず、2023年度の所定内給与が2022年度と同程度の前年比1%台の低い伸びにとどまっていること、生産活動の停滞を反映し、所定外給与が低迷していることが賃金の伸びを抑制している。

春闘の結果との連動性が高い一般労働者の所定内給与は2023年度入り後、前年比1%台後半から2%程度で推移し、2023年春闘のベースアップ(2%程度)と同程度の伸びとなっている。また、労働需給の引き締まりを反映し、パートタイム労働者の所定内給与は一般労働者を上回る伸びとなっている。それにもかかわらず、労働者全体の所定内給与が前年比で1%台前半の伸びにとどまっているのは、賃金水準が相対的に低いパートタイム比率の上昇によって平均賃金が▲0.5%程度押し下げられているためである。
しかし、毎月勤労統計のパートタイム労働者比率は、2024年1月確報公表時に実施されたベンチマーク更新2によって、2024年1月分が速報値の32.45%から30.88%へと大幅に下方修正された。毎月勤労統計のパートタイム労働者比率は過去に遡って改定されないが、前年同月差を計算する際には2023年1月以降のベンチマーク更新後のパートタイム労働者比率と比較することにより算出されている。このため、パートタイム労働者比率の水準は2024年1月以降大きく低下したにもかかわらず、前年同月差はプラスになるという矛盾が生じている3

ベンチマーク更新後のパートタイム労働者比率が大きく低下したことを踏まえれば、2023年以前のパートタイム労働者比率は過大で、これにより一人当たり名目賃金の伸びは実態よりも低くなっていた可能性が高い。
名目賃金は2024年春闘の結果が反映される2024年夏場にかけてベースアップと同程度の前年比3%台まで伸びを高めるだろう。一方、消費者物価(生鮮食品を除く)は当面2%台後半の伸びが続くが、財価格の上昇率鈍化を主因として2024年度後半には2%台前半まで低下することが見込まれる。この結果、実質賃金上昇率は2024年10-12月期にプラスに転じることが予想される。ただし、パートタイム労働者比率の上昇によって平均賃金が押し下げられる傾向が2024年入り後も続いていることには注意が必要だ。パートタイム労働者比率の上昇ペースが加速した場合には、2023年度と同様に高い春闘賃上げ率にもかかわらず毎月勤労統計の賃金上昇率が伸び悩む可能性がある。

2023年度の名目雇用者報酬は前年比1.8%と3年連続で増加したが、消費者物価上昇率が高止まりしたことから、実質雇用者報酬は前年比▲1.6%と2年連続で減少した。名目雇用者報酬は、春闘賃上げ率の高まりを反映し、2024年度が前年比3.2%、2025年度が同3.1%と伸びを高めるだろう。実質雇用者報酬は、物価上昇率の鈍化を受けて、2024年度に前年比0.5%と3年ぶりに増加した後、2025年度は同1.3%と伸びを高めることが予想される。
 
2 毎月勤労統計は、毎年1 月のサンプル入替え(30 人以上規模の事業所について、全体の3 分の1ずつ調査対象事業所を入れ替える)に加え、数年に一度、「経済センサス-基礎調査」等の結果(産業・規模別の労働者数)を反映させるベンチマーク更新を行う。2024年1月はサンプル入替えと2022年1月以来2年ぶりのベンチマーク更新(ベンチマークは2021年)が同時に実施された。
3 また、2024年1月以降、一般労働者は前年比で増加、パートタイム労働者は前年比で減少しているにもかかわらず、パートタイム労働者比率は上昇しており、両者が整合的な動きとなっていない。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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