■要旨
2023年9月26日、連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下、FTC)およびニューヨーク州をはじめとする17の州が、Amazonをワシントン州西部地区の連邦地方裁判所に訴えた(以下、本訴訟)。本訴訟の内容はAmazonの自社販売プラットフォームであるRetail(またはオンラインスーパーストア)と、第三者販売者の販売事業を仲介するMarketPlaceが、それぞれオンラインスーパーストア市場と、オンライン販売仲介サービス市場において私的独占の禁止に違反し、不公正競争行為を行ったとするものである。
訴状の内容をまとめると以下の通りである。
(1) Amazonは膨大な販売者が存在するというメリットと、送料無料サービスやビデオストリーミングサービスなどを提供するPrime会員制度によって膨大な数の顧客を囲い込んでいる。Prime会員を含むAmazonの顧客のほとんどはAmazonの検索結果に表示されるお勧め商品を提示すBuy Boxから商品を購入する。
(2) 販売者はBuy Boxを獲得するために、Prime適格になる必要があり、そのためにはAmazonの保管・運送サービスであるFBAを利用する必要がある。このことにより複数のオンラインストアで販売しようとする販売者は複数の保管・配送サービスを利用しなければならず、保管・配送の効率化が阻害されている。また他のオンラインストアでAmazon以下の価格で販売しないことが事実上要請され、これに違反するとBuy Boxからの排除などのペナルティを受けるため、販売者はこれに従わざるを得ない。
(3) Amazonは市場で独占力を有しており、上記(1)(2)の結果、価格競争が阻害された結果、市場全体の商品価格が上昇し、消費者に被害を及ぼした。
法的な主要な論点と考えられるのは、Amazonと販売者との間の契約で、Amazonのプラットフォームにおいて最低価格保証を求める、いわゆる最恵国待遇条項がない中で、事実上最低価格保証を強要していたという実態の存在を競争法上どう考えるかである。
EUにおけるAmazonの確約計画を前例として考えると、FTC等の主張が認められる可能性があると思われるが、今後の訴訟の推移を注視したい。
■目次
1――はじめに
2――該当法令
1|米国の競争法
2|私的独占の禁止
3――前提事実
4――Amazonはオンラインスーパーストア市場で独占力を有する(一般的な立証方法)
1|Amazonは2つの市場で独占力を有する
2|オンラインスーパーストア市場は一定の関連市場として画定される
3|Amazonはオンラインスーパーストア市場で独占的なシェアを有する
4|Amazonのオンラインスーパーストアの独占的地位は重大な参入障壁を有する
5――Amazonはオンライン販売仲介サービス市場で独占力を有する
1|オンライン販売仲介サービス市場は一定の関連市場として画定される
2|Amazonはオンライン販売仲介サービス市場において独占的なシェアを有する
3|Amazonはオンライン販売仲介サービス市場において重大な参入障壁を有する
6――直接的な証拠がAmazonの独占力を示す(直接的な立証方法)
1|Amazonは自然な検索結果に関係のない広告をちりばめることで収益を得つつ検索
結果の質を落とす
2|Amazonは自社のプライベートブランドを販売者の上に置くことで検索品質を下げる
3|Amazonは販売者に対する価格をあげたにもかかわらずビジネスを失わなかった
7――Amazonによる違法な独占力維持行為
1|悪意のある独占力の維持・獲得、弊害の存在
2|Amazonは競争阻害行為により独占を維持する
3|AmazonはFBA(保管・運送サービス)を強制し独占を維持するとともに価格上昇の
弊害を生む
8――Amazonは他のオンラインストアの価格をアルゴリズム活用により上昇させている
1|PNは他のオンラインストアの価格を上昇させAmazonに利益をもたらす
2|PNは他のオンラインストアの価格を上昇させAmazonに利益をもたらす
9――Amazonの違反行為
10――検討
1|訴状の骨子
2|検討
11――おわりに