「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2024年2月時点)

2024年02月09日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、働き方の変化に伴うワークプレイスの見直し等が進むなか上昇基調で推移し、2013年第3四半期以来となる7%台に迫っている。一方、成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移していたが、足元では下げ止まり感がみられる。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2028年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移している。2023年第4四半期は6.9%(前期比+0.2%)となり、2013年第3四半期以来となる7%台が間近に迫る。

一方、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は、需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移していたが、2023年第4四半期は25,240円(前期比+2.4%、前年同期比▲11.7%)と下げ止まり感がみられる(図表-1)。
Bクラスビル及びCクラスビルについては、空室率は改善し、成約賃料は底打ちから回復に向かいつつある。2023年第4四半期の空室率はBクラスビルで4.3%(前期比▲0.5%、前年同期比▲0.3%)、Cクラスビルで4.4%(前期比▲0.1%、前年同期比▲0.4%)となり(図表-2)、成約賃料はBクラスビルで18,918円(前期比+4.4%、前年同期比+5.3%)、Cクラスビルで17,202円(前期比+5.3%、前年同期比+6.2%)となった(図表-3、図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-5)。
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2023年12月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.2%)」で、次いで「千代田区(29.0%)」、「中央区(17.8%)」、「新宿区(12.4%)」、「渋谷区(8.5%)」の順となっている(図表-6)。

「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲0.4万坪)と「中央区」(同▲0.9万坪)、で減少する一方、「港区」(同+14.0万坪)、「新宿区」(同+1.0万坪)、「渋谷区」(同+2.9万坪)で増加し、合計+16.6万坪となった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「港区」(同+11.0万坪)等、すべての区で増加し、合計+19.0万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は、東京ビジネス地区全体で▲2.4万坪の減少となった。
エリア別の空室率(2023年12月時点)を確認すると、「千代田区3.2%」(前年比▲1.5%)、「新宿区5.1%」(同▲0.8%)、「中央区7.0%」(同▲1.0%)が低下した一方、「渋谷区4.3%」(同+0.7%)と「港区8.9%」(同+0.7%)は上昇した(図表-8左図)。コロナ禍以降、空室率の格差が拡大傾向にある。

募集賃料は、「渋谷区(前年比+5.1%)」が上昇したが、「中央区(同▲2.7%)」、「千代田区(同▲1.8%)」、「港区(同▲1,6%)」、「新宿区(同▲1.8%)」は下落した(図表-8右図)。
2-3. 企業のオフィス環境整備の方針等を踏まえた、今後のオフィス需要を考える
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「在宅勤務の状況」、(3)「フリーアドレス4の導入状況」、(4)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
 
4 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
(1) オフィスワーカー数の動向
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、2021年第3四半期から9期連続で前年同期比プラスとなり、2023年第3四半期は839万人(前年同期比+7.2万人)となった(図表-9・左図)。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が124、「学術研究,専門・技術サービス業」が115、「金融業,保険業」が111となり、全体(107)を上回るペースで増加している(図表-9・右図)。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業) は、2020年第2四半期に+4.6へ大きく低下した後、回復が続いている。2023年第4四半期は+24.5となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回り、過去最高値を更新した(図表-10)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2023年第4四半期は「製造業」が+14.0、「非製造業」が+29.3となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、過去最高値を更新し、人手不足感がより強いと言える。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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