高齢者にとって、「終活」は大きな関心事だろう。しかしシングル、特に未婚の場合は、頼れる子などが身近にいないため
2、例えば認知能力が低下した後の財産管理や生活支援、死後の手続きなどについて、不安や戸惑いも大きいのではないだろうか。あるいは、不安が大きいからこそ、準備をしっかり進めているのだろうか。この点について知るため、「相続」と「金銭管理」の2点に関して、実際にどのような備えを実施しているのか、文化センターの調査結果を基に、性・配偶関係別に分析した。
始めに相続について、「ご自身に万一があった場合のための相続準備をしていますか」(複数回答)という設問に対し、該当する項目の回答割合を、性・配偶関係別に比較したものが図表1である。まず男性について見ると、「全体」では約6割が「特に何もしていない」と回答しており、残る約4割が何らかの対策を行っていることが分かった。具体的な内容をみると、最も多いのは「生命保険加入」(約3割)で、「生前贈与」(約1割)と「遺言の作成」(約1割)が次ぐ形となった。
これを配偶関係別に比較すると、「未婚」では「特に何もしていない」が全体よりも約10ポイント高く、「生前贈与」や「生命保険加入」を準備している割合も、全体よりも有意に低いなど、準備が低調であることが分かった。
そもそも相続の準備状況は、世帯の資産状況と関連があると考えられる。文化センターの調査報告書(2021年)によると、相続の準備状況を世帯保有金融資産の階級別に比較したところ、「生命保険加入」や「生前贈与」は概ね高資産層ほど高く、「特に何もしていない」は最も低い階級である「100万円未満」の層で高くなっていた
3。
また、当シリーズの別稿「
シングル高齢者の増加とその経済状況~未婚男性と離別女性が最も厳しい」によると、未婚男性は、世帯資産「100万円未満」という低資産層が約4割に上り、すべての性・配偶関係のうち、ダントツで割合が大きかった。従って、未婚男性の中には「そもそも相続する資産が無いので、準備することもない」という人が多いと考えられる。
また、当然ではあるが、「財産を残したい親族がいるか」という点も、相続の準備状況に違いを生んでいるだろう。当シリーズの別稿「
シングル高齢者の住宅と生活~未婚女性の6割は1日60分以上歩くアクティブ層、未婚男性と離別・死別男女の1割弱は殆ど歩かない不活発層」によると、未婚男性のほとんどは子や孫がいないため
4、準備が低調だと考えられる。
男性のうち「配偶者あり」と「離別・死別」は、全体比べて有意な差は見られなかった。
次に女性について見ると、「全体」では、男性と同じく約6割が「特に何もしていない」と回答し、何らかの準備をしているのは約4割だった。具体的に準備しているものの傾向も、男性と同じで、最も多いのが「生命保険加入」(約3割)、次いで「生前贈与」(約1割)と「遺言の作成」(約1割)となった。
配偶関係別にみると、「未婚」は「特に何もしていない」割合が、全体より低かった。上述した世帯の資産状況との関連をみると、未婚男性とは逆に、未婚女性は「100万円未満」という低資産層の割合が約1割で、すべての性・配偶関係の中で最も低かった。これが、相続準備のプラス要因になっている可能性がある。具体的な対策をみると、「遺言の作成」は全体より10ポイント以上高かった。未婚女性のほとんどは子や孫がいないが
5、「生前贈与」や「生命保険加入」の割合も、全体と同水準だった。
前稿「
人生100年時代のシングル高齢者の不安と備え~未婚女性はポジティブで備えも進み、未婚男性はネガティブで備え不足」では、未婚女性は、すべての性・配偶関係の中で、長生きする意欲が最も強いことや、老後に向けた経済的な備えが最も進んでいることを紹介したが、相続についても、最も計画的に実施していることが分かった。長寿を見据え、あらゆる面で、準備を着々と進めている様子が伺える。但し、子や孫がいない中で、未婚女性が進めている生前贈与の内容や生命保険加入の目的等については、当調査では明らかではなく、筆者の今後のテーマとしたい。