(4)コロナ対策完全撤廃に伴い原則出社勤務へ変更、コロナ以前のオフィス環境に戻す
(3)で述べたコロナ感染対策の完全撤廃に伴い、2023年2月22日より、それまで「原則、週3日出社・週2日在宅勤務」を推奨していた出社体制を廃止し、生産性を向上させより高い成果を出すことを目的とした「武器としての在宅勤務」
42および、将来のオフィス賃料を削減し従業員へ還元するための計画的な在宅勤務の活用
43を除き、出社しての勤務を原則とした
44。その目的は、「『コロナ以前のオフィス環境』に戻すことで、従業員同士のコミュニケーションをさらに活性化させること」にあるという。
筆者は、2021年拙稿にて「メインオフィスの重要性を熟知し実践してきた米国の先進的なハイテク企業では、コロナ後に従業員の安全性が確認されれば、速やかに躊躇なくメインオフィスでの業務を全面的に再開する、すなわちコロナ前の体制に積極的な意味で『戻す』だろう。コロナ後には平時の体制に戻すのであって、コロナ禍での気付きをBCPや働き方・オフィス戦略の改善に活かすことはあったとしても、基本的には、最先端のワークスタイルやワークプレイスを活用したこれまでの戦略に大きな変更は生じないはず」といち早く予想していたが、代表格のGAFAはまさにそのような経緯を辿っているとみられる。同社がコロナ感染対策の完全撤廃に伴い、コロナ前のオフィス環境に躊躇なく戻したことは、米国の先進的な巨大ハイテク企業と同様のやり方であり、大変心強く感じる。
一方、日本企業の中で「新型コロナの脅威が後退し従業員の安全確保が確認できれば、あるいはコロナ後の平時に戻れば、自信をもってコロナ前の体制に戻す」と明確に言い切って公表できる企業は極めて少ないとみられる。2021年拙稿にて指摘した通り、多くの日本企業では、導入・実践が遅れている大本のCRE戦略をしっかりと取り入れた上で、それに基づく創造的なオフィス戦略を新たに構築することが急務であるため、確かにコロナ前の体制にそのまま戻すことが正解にはならないだろう。その正解を追求する際に留意すべきは、コロナ後には、人々の生活や働き方が何でもかんでも大きく変わるニューノーマルが訪れると思い込むのではなく、米国の先進企業が実践してきた「オフィス戦略の定石」や筆者が提唱する「メインオフィスの重要性」を「ブレない軸=原理原則」として取り入れることこそが重要である、と捉えることだ。
さらにGMOインターネットグループでは、2023年5月8日に新型コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行したことに伴い、翌日の5月9日に検温機の撤去を実施したことで、オフィスで実施していた感染対策をすべて撤廃し、「コロナ以前のオフィス環境」に戻した
45。検温は、同年2月時点では前述の通り、消毒・手洗いとともに基本的な感染症対策として継続実施としていた。消毒・手洗いの励行については、5月以降も通常の衛生対策としてそのまま維持するとした。
42 熊谷代表は、「リモートワークの有効性がコロナで確認できたので、これを続け武器にしていくのが重要だ」(日経産業新聞2022年1月5日「週2在宅勤務で『未来家賃』抑制 GMO熊谷社長に聞く」)、「ビジネスが『戦(いくさ)』なら、オフィスは『武器』であり、テレワークもまた『武器』」(東急不動産ホールディングス2020 統合報告書)と述べている。
43 在宅勤務の計画的な活用により発生するオフィススペースの余裕(これまでの週3日出社・週2日在宅勤務の体制の下では4割のスペースの余裕が生まれる)を将来のオフィス増床に充てることで、将来のオフィス賃料の増加を抑制することができ、その利益留保分を従業員と株主に還元するという、当社独自の考え方を指す。詳細は後編にて記述する。
44 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2023年5月11日「GMOインターネットグループ、新型コロナ5類移行に伴い感染症対策をすべて撤廃」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
45 注44と同様。