2|同盟国・同志国間の政策協調に関わるリスク
(1)中国への脅威認識の差からくる足並みの乱れ
2-1項で紹介したG7の合意は大枠と方針の確認であり、具体的な政策に踏み込むものではない。薬師寺(2023)は、G7の合意は、「各国はそれぞれ自分の都合のよいように解釈することが可能」であり、その根本には、「米国と欧州の対中観の違い、中国のリスクに対する認識、リスク封じ込めのために何をしなければならないか」に違いがあるからと読み解いている。
米国のバイデン政権の対中姿勢は、佐橋(2023)によれば、「中国の成長を鈍化させてでもアメリカの優位を軍事的、経済的に確保し続けようとするもの」だという。EUの「多国間主義と多極主義を提唱」
27し、「開かれた戦略的自立」を目標とする立場とは隔たりが大きい。米国にとっては、ロシアウクライナ戦争後も中国がもっとも戦略的に深刻な課題」であり、中国との軍事衝突の回避は「切実な目標」である。これに対して、欧州にとって安全保障上の最大の脅威はロシアであり、中国への脅威認識は、基本的に経済的な側面にある。
市民のレベルでも、欧米間の認識の差は大きい。米国のシンクタンクのピュー・リサーチ・センターが23年5月30日から6月4日までに実施した「将来、米国にとって最大の脅威になる国」などに関する調査によれば
28、中国を挙げた割合が50%で、ロシアの17%を大きく上回り、中国とロシアは同率の24%だった2019年の調査から大きく変化した。ロシアについては、「大いなる脅威」と「かなりの脅威」と答えた割合が、国家安全保障の合計97%を、経済面は同77%と大きく下回る。これに対して、中国は、「大いなる脅威」と「かなりの脅威」と答えた割合が国家安全保障96%と経済面98%と両面で強い警戒感を抱いていることがわかる。また、同センターが、3月20日から26日に実施した別の調査
29では、中国を「敵」と見なす割合が38%と、図表3で紹介した欧州諸国を対象とする調査よりも遥かに高く、「競争相手」が52%、欧州で最も割合が高かった「パートナー」は僅か6%に留まっている。
米欧間の国家安全保障上の脅威としての中国に対する認識のギャップは、中台関係に関しても観察される。米国民の間では、中台関係の緊張を「とても深刻な脅威」と考えている割合は47%まで高まっている
30。欧州について、同様の調査はないが、ECFRの調査では、米国を「必要なパートナー(43%)」と「盟友(32%)」と答える割合が合わせて7割を超えていながらも、「台湾有事の際、自国が米中のどちらを支持するか」という設問に対する最多の回答は「中立」の62%で、「米国支持」は23%に過ぎない。台湾有事を切実な問題とは受け止めていないことも一因と考えられる。
27 渡邊(2021)p.313
28 Lam and Silver(2023)
29 Silver, Huang, Clancy and Faganmn(2023)
30 同上