■要旨
気候変動問題への注目度が高まっている。温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化により、台風、豪雨、熱波、干ばつ、海面水位の上昇など、地球環境にさまざまな影響がもたらされている。
その極端さを数量的に把握する試みとして、
2023年4月6日の基礎研レポートでは、北米やオーストラリアの先行事例を参考に、日本全国版の気候指数を作成した。今後、気候変動リスクのうち、長期間に渡って徐々に環境を破壊していく「慢性リスク」を定量的に示すものとして、その活用の方向性がさまざまに考えられる。
そのなかで、気候変動が人の生命や健康に与える影響は、関心度が最も高いものの1つといえるだろう。だが、気候変動と、人の生命や健康の関係は単純なものではない。研究により、何らかの相関関係が見られたとしても、因果関係の存在を示すだけのエビデンスが得られるとは限らない。
今回はまず、気候指数と死亡率の関係を、統計的な処理を通じて見ていくこととしたい。
本稿が、気候変動問題について、読者の関心を高める一助となれば幸いである。
■目次
はじめに
1――気候指数の目的と活用
1|気候指数には慢性リスク要因の定量化が求められる
2|気候指数の活用-気候変動が人の生命や健康に与える影響を数量で把握
3|人の生死には、気候変動以外にもさまざまな要素が影響する
2――死亡率の算定
1|日本で暮らす人の死亡率をどうとらえるか
2|1971年以降のデータで見る
3|死亡数は、都道府県別データをもとに年齢群団と死亡月の按分処理を施す
4|年齢区分は5歳ごととする
5|死因は6つにくくる
6|人口は、国勢調査と人口推計のデータを用いる
7|「死亡率」は死亡数を人口で割り算したものを調整して算出する
3――気候指数の設定
1|気候指数は、全国を11の地域区分に分けて設定する
2|気候指数は、月単位のものを用いる
4――回帰式の立式
1|回帰式には気候指数の他に定数やダミー変数を組み込む
2|高温と低温の指数については、2乗の項も用いる
3|死亡率の改善トレンドを、時間項として織り込む
4|気候指数に反映されている地域区分と月については、ダミー変数を用いる
5|ロジット変換により、死亡率の計算結果が負値となることを回避
5――説明変数の削減
1|アメリカのアクチュアリー気候リスク指数では、高温、低温、降水、風が用いられている
2|高温指数との関係から低温指数は削減する
3|乾燥指数を残し、降水指数は削減する
4|風指数は残し、海面水位指数は削減する
5|高温、乾燥、風、湿度の4つの気候指数を採用
6――実績と回帰計算結果の比較
1|死亡数 : 回帰計算結果は、死亡数実績を概ね再現できている
2|死亡率 : 回帰計算結果は、死亡率実績も概ね再現できている
7――回帰式を用いた試算
1|高温指数が1高かった場合、死亡数は+0.1万人増加
2|高温指数が2高かった場合、死亡数の増加は+2.6万人に拡大
3|高温、乾燥、風、湿度指数がいずれも1高かった場合、死亡数は+0.2万人増加
8――おわりに (私見)