2|高温と低温の指数については、2乗の項も用いる
前節の回帰式で、まず目を引くのが、高温と低温の指数の2乗の項だろう。2乗の項を入れることで、線形回帰
15をやめて、あえて複雑な回帰式としている。
その検討過程においては、温暖化の健康影響に関する先行研究を踏まえている。2014年に公表された環境省の研究費用を用いた研究の報告書
16に掲載されている「温暖化の健康影響 -評価法の精緻化と対応策の構築-」という報告では、「至適気温」と、それを踏まえた回帰式の立式について、次の説明がなされている。
「厚労省から死亡小票データ、気象庁から気象データを入手して、日別の最高気温と死亡数の関連を観察すると(中略)V字型になる。暑くても寒くても死亡数は増加するので、中間付近に死亡数が最も少ない気温(=至適気温)があり、この気温を超えた、ある気温での死亡数から至適気温での死亡数を引いた部分を超過死亡と定義した。(以下略)」
つまり、気温については、2次元で回帰する手法がとられている。さらに、海外での同様の先行研究においても、気温については2次元で回帰するケースが複数見られている。
"Because the effects of temperature on mortality are usually nonlinear, with J-, U-, or V-shaped relations commonly reported, we used both a linear and a quadratic term for temperature at each lag. (通常、死亡率に与える気温の効果は非線形であり、J字型、U字型、またはV字型の関係が一般的に報告されているため、各ラグにおける気温について線形項と二次項の両方を使用した。)
-"The Effect of Weather on Respiratory and Cardiovascular Deaths in 12 U.S. Cities"(Alfésio L. F. Braga, Antonella Zanobetti, and Joel Schwartz, 2002)
"Generally, like in the London data, mortality is found to be lowest at average temperatures and higher at low and high temperatures. Thus, a simple log linear function is not usually adequate. The relationships are often described as U-, V-, or J-shaped. (一般に、ロンドンのデータと同様に、死亡率は平均気温で最も低く、低温と高温でより高いことがわかっている。したがって、通常、単純な対数線形関数では十分ではない。この関係は、U字型、V字型、またはJ字型として記述されることが多い。)
-"Models for the Relationship Between Ambient Temperature and Daily Mortality"(Ben Armstrong, 2006)
実際に、今回のデータの様子をみてみよう。男性と女性の80~84歳について、地域区分ごとに、横軸に気候指数、縦軸に死亡率をとって、実績データの散布図を作成したところ、55~68ページの「気候指数と死亡率の関係」の通りとなった。高温指数について、直線近似(紺色の線)よりも、2次関数近似(赤色の線)のほうが、指数が上昇した場合の死亡率の変動を適切に表示できるものと見ることができる。一方、それ以外の気候指数については、どちらの近似が適切か、判断しがたい
17,18。
15 説明変数と被説明変数の関係を1次関数で当てはめること。
16「地球温暖化『日本への影響』-新たなシナリオに基づく総合的影響予測と適応策-」(環境省環境研究総合推進費 戦略研究開発領域 S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書, S-8 温暖化影響・適応研究プロジェクトチーム)
17 低温指数については、2乗の項を用いないことも考えられるが、ここでは高温指数にあわせて用いることとしている。
18 高温指数と死亡率の関係を死因別に見ると、上に凸の2次関数近似となる場合があるが、今回の回帰計算では存置した。