高インフレ、景気停滞下のユーロ圏の財政ルール再起動

2023年07月21日

(伊藤 さゆり) 欧州経済

■要旨
 
  1. ユーロ圏のインフレ率は大きく鈍化したが、賃上げ分の価格転嫁でサービス価格は上昇している。利益と賃金と物価のスパイラル的上昇リスクへの警戒は解けない。ECBは、7月0.25%の追加利上げ後、累積的な利上げ効果を見極めるとの姿勢を一層強めよう。
     
  2. 財政政策は、ユーロ圏の予想を大きく超えるインフレの高進、長期化の一端を担った可能性がある。2020年以降、過剰な財政赤字の是正などを求めるEUの財政ルールは一時的に適用停止されてきた。各国がエネルギー危機対策に動いた2022年の財政スタンスは、21年よりも緩和的で、対象を絞るなどの要件を満たしていないものが多かった。金融政策との関わりでは、各国の対策の違いが、インフレ格差につながる悩ましさもある。
     
  3. 欧州委員会は、23年度のユーロ圏の財政スタンスはやや緊縮的な方向に転じ、財政ルールの適用停止が解除される24年度は0.75%相当の緊縮的な運営を予測している。独立機関のEBFは、大幅利上げと金融システム不安定化リスク封じ込めのため、より緊縮的運営が適当と評価する。
     
  4. 財政ルールは枠組み自体も24年から改定が見込まれる。財政赤字のGDP比3%などの基準値は変えず、各国の裁量と時間的猶予を拡大する方向で調整が進められている。ルール再適用の場合、財政健全化を求められる国はそれなりの数に上り、フランス、イタリアという大国も含まれる可能性が濃厚だ。

 

経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり(いとう さゆり)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴

・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職

・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
           「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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