■要旨
本稿では、日本の少子化を取り巻く諸課題の中で、筆者の専門領域である生物学的・医学的な視点から、妊娠・出産年齢が及ぼす生物学的な視点に立ち返って影響を概観した。
まず、妊娠・出産年齢の高齢化に先立ち、平均初婚年齢の現状をみると、2021年には妻:29.5歳、夫:31.0歳と、1950年と比較して妻の平均初婚年齢は6.5歳の上昇、夫の平均初婚年齢も5.1歳の上昇が認められた。
次に、2021年における第1子出産(出生)時の平均年齢をみると、母:30.9歳、父:32.9歳であり、1950年と比較すると、第1子出産時の母の年齢は6.5歳の上昇、夫の記録が始まった1970年から比較すると、妻は5.2歳の上昇、父も4.6歳の上昇が認められた。
妊娠・出産の高齢化に伴う生物学的な影響については、妊娠年齢の高齢化や妊娠回数の減少、人工乳への導入により本来曝露されない期間に女性ホルモンの過剰な曝露(現代女性は1900年代と比較し9倍から10倍の月経回数)を受けることで婦人科系疾患のリスクが増大している。
また、女性は胎生5か月児の卵胞数700万個のピークから排卵ごとに減少し続けるため妊孕性の限界や不妊症のリスクが増大することも明らかになっている。
続いて、高齢妊娠の場合には、長年確立してきた生活習慣から糖尿病や肥満などの影響で周産期合併症が出現することや、帝王切開が有意に多くなるなど周産期周りのリスクの増大についても指摘されている。
また、産後3か月時点において、35歳以上の母親の状態を34歳未満の母親と比較すると、睡眠時間が短く(-0.42時間)、主観的ストレス度が高く(+0.36)、身体疲労度も高い(+0.44)結果が統計学的な解析から明らかとなった。
さらに、先行研究にて、卵子の劣化に伴う染色体異常の発生確率の増加や、精子の劣化に伴う精神疾患の増加などが先行研究にて明らかになりつつあり、男女とも妊孕性の限界や加齢に伴う生物学的な影響を正しく認識し、現代社会に応じた家族計画やキャリアメイクの在り方を検討する必要性が示唆された。
■目次
1――はじめに
2――婚姻年齢、妊娠・出産年齢の高齢化の現実
2-1|平均初婚年齢の高齢化
2-2|第1子出産(出生)時の母親・父親の年齢の高齢化
3――妊娠・出産年齢が遅れることによる女性への生物学的な影響
3-1|女性ホルモンの長期的な曝露による婦人科系疾患の発現リスク増
3-2|妊娠年齢の高齢化による妊孕性の限界から不妊症・不育症のリスク増
3-3|高齢な母体が及ぼす妊娠合併症や分娩異常、産後の母体回復の遅延
3-4|高齢出産を経た女性における子育てに伴う身体的・精神的負担の増加
4――妊娠・出産年齢が遅れることによる子どもへの生物学的な影響
4-1|卵子の劣化による染色体異常発生の増加
4-2| 精子の劣化による子どもの精神疾患や小児がんの発生に影響
5――まとめ