少子化進行に対する意識と政策への期待(2)-これから子育て世代で約3割が期待、経済基盤の安定化と社会の意識改革が必須

2023年04月27日

(久我 尚子) ライフデザイン

■要旨
 
  • ニッセイ基礎研究所の調査にて、政府の「次元の異なる(異次元の)少子化対策」への期待の度合いを見ると、期待している層は20.3%、期待していない層は44.7%で、期待している層は若者や高齢者ほど多く(20歳代で25.5%、70~74歳で29.1%)、期待していない層は40~60歳代で多い(約半数)。
     
  • 期待している理由は、「日本にとって重要な課題」(56.8%)や「少子化の進行を食い止めて欲しい」(48.8%)といった社会課題の解決が圧倒的に多く、以下、「自分や家族、親族に関係がありそう」(22.8%)、「日頃から関心のある事柄」(19.1%)など当事者意識に関わるものが続く。属性別には、高齢者は社会課題の解決として、子育て中の女性は当事者意識から期待している傾向がある。
     
  • 期待していない理由は「政府の課題認識の甘さ」(38.8%)、「これまでも上手くいっていない」(38.5%)、「そもそも結婚をしない人が増えている」(34.6%)、「選挙対策」(32.1%)、「政権を支持していない」(29.7%)、「スピードが遅い」(27.7%)、「表現にインパクトがあるだけ」(27.5%)、「防衛予算増額の議論から注意をそらすため」(19.0%)など。属性別には、高齢者は選挙目的など、子育て中の女性は過去の不成功体験などから期待していない傾向がある。
     
  • 「異次元」少子化対策として何より重要なことは、20歳代から30歳代にかけて結婚や子どもを持つ希望が大幅に減退する前に、将来を担う世代にどれだけ希望を持ってもらえるかが重要だ。そのためには経済基盤の安定化が重要で、非正規雇用の若者の正規雇用化や正規雇用の女性の就業継続を確実に進めていく必要がある。雇用環境からのアプローチは直接的な解決策には見えにくいかもしれないが高い効果があるだろう。
     
  • 若い世代が子育てに感じる身体・精神的負担の強さも無視できない。具体的な数字としてあらわれる経済支援策などに関心は高まりがちだが、社会全体の意識改革も必須だ。雰囲気づくり、というと柔らかすぎるかもしれないが、社会全体でこどもを育てていく、子育てを見守っていく、そして、将来を担う世代の味方であるという雰囲気をいかに醸成できるかが鍵だ。こども家庭庁には「こどもまんなか社会」の実現を期待したい。


■目次

1――はじめに
 ~政府の「次元の異なる(異次元の)少子化対策」への期待は?
2――「次元の異なる少子化対策」への期待の程度
 ~期待層は約2割だが、これから子育て世代で約3割
3――「次元の異なる少子化対策」に期待している理由
 ~日本の重要課題、子育て中の女性は当事者意識
  1|全体の状況
   ~日本の重要課題(56.8%)、少子化を食い止めて欲しい(48.8%)が圧倒的に多い
  2|属性別の状況
   ~子育て中の女性は当事者意識から、高齢者は社会課題の解決として期待
4――「次元の異なる少子化対策」に期待していない理由
 ~政府の課題認識の甘さ、過去の不成功体験
  1|全体の状況
   ~政府の課題認識の甘さや不成功体験(約4割)、未婚化、選挙対策との懐疑的な声も
  2|属性別の状況
   ~子育て中の女性は過去の不成功体験、高齢者は選挙目的などから期待せず
5――おわりに
 ~将来世代の経済基盤の安定化とともに、「こどもまんなか社会」実現の意識改革が必須

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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