若者の雇用状況が改善されていないことも貧困と所得格差を深刻化させる要因になっている。韓国における15~29歳の若者の就業者数は、2020年の376.4万人から2021年には387.7万人に増加し、同期間の失業率も9.0%から7.8%に1.2%ポイント低下した。新型コロナウイルスのパンデミックによる落ち込みからの反動増の側面が強く、政府の財政支出も雇用を押し上げる要因となった。しかし、若者の就業者数は新型コロナウイルスが発生する前である2019年の394.5万人までは回復しておらず、若者の失業率7.8%は全体失業率3.7%と比べて2倍以上も高い状況である。
さらに問題であるのは、実際の失業率は統計上の失業率を上回っている可能性が高いことである。その理由として韓国では、(1)15歳以上人口に占める非労働力人口の割合が高いこと、(2)非正規労働者の割合が高いこと、(3)自営業者の割合が高いこと等が挙げられる。
韓国政府は、既存の失業率が労働市場の実態を十分に反映していないと判断し、2015年から毎月発表する「雇用統計」に、失業率と共に「拡張失業率」を公表している。「拡張失業率」は国が発表する失業者に、潜在的な失業者や不完全就業者(週18時間未満働いている者)を加えて失業率を再計算したものである。このような計算方式によって算出された2022年1月時点の15~29歳の拡張失業率は、19.7%に至っている。一般的な失業率7.8%を2.5倍も上回る数値である。
韓国における雇用状況が改善されず、若者の多くが労働市場に参加していない理由としては、低成長がニューノーマルになったことにより成長と雇用の連携が弱まったことと、労働市場の「二重構造」が拡大していること等が挙げられる。1997年のアジア経済危機以前は10%前後であった経済成長率は、その後低下し続け、最近は2~3%に留まっている。さらに、2020年には新型コロナウイルスの影響で-0.9%まで低下した。大学を卒業すると就職や正規職が当たり前だった386世代
6とは状況が大きく変わり、安定的な仕事を得ることが難しくなったのだ。
また、大企業、正規労働者、労働組合のある企業などの1次労働市場と、中小企業、非正規労働者、労働組合のない企業などの2次労働市場の格差が拡大したことも若者が労働市場への参加を躊躇する要因になっている。つまり、韓国では大企業と中小企業、正規労働者と非正規労働者の間で賃金格差が大きいため、若者の多くは1次労働市場に入るための手段として「学歴」を選択し、高卒者の約7割が大学に進学している。しかしながら、1次労働市場の需要量は供給量を大きく下回るため、大卒者の一部だけしか1次労働市場に参入できる機会を得られていない。学歴による差別化のみでは不十分となり、学歴だけで1次労働市場に入ることが難しくなると、若者は労働市場において差別性を持つ手段として「スペック」を選択することになった。スペック(SPEC)とは、Specificationの略語で、就職活動をする際に要求される大学の成績、海外語学研修、インターン勤務の経験、ボランティア活動、各種資格、TOEFLなど公認の語学能力証明などを意味する。2000年代には大学名、大学成績、TOEIC成績、海外への語学研修経験、資格証といういわゆる5大スペックが就職するための必須条件であったが、2010年代には、既存の5大スペックに、ボランティア活動、インターンシップの経験、受賞経歴を加えた、8大スペックが基本になった。そして、最近は8大スペック以上のスペックを準備している若者も増えている。スペックを多く準備した方が1次労働市場に参加できる確率が高いため、若者の多くは就職浪人をしてまでもスペックを準備しようとしている。これが上述した若者の「拡張失業率」を高めた主な要因である。
さらに、新型コロナウイルスの発生以降、若者の就職環境は以前より厳しくなった。多くの企業で新卒採用の規模を縮小し、新規採用を一時中断する企業まで現れたからだ。
新型コロナウイルスが起きる前には韓国の狭い労働市場を離れて、海外の労働市場にチャレンジする若者が毎年増加していた。韓国産業人力公団の資料によると、海外就業者数は2013年の1,607人から2019年には6,816人まで増加した。史上最悪とも言われた日韓関係の中でも日本での就職者は増え、海外就業者の3割以上(35.6%、2,429人)が海外の就職先として日本を選択した。しかしながら、新型コロナウイルスはこのような選択肢さえ奪うこととなった。
このような厳しい状況の中で若者の多くは「公務員志望」に頼っている。しかしながら、公務員になるのも簡単ではない。2022年に5,672人を採用する9級国家公務員採用試験には165,524人が志願した。志願倍率は29.1培に達している
7。多くの若者が公務員浪人をしながら公務員を目指すものの、浪人をしても公務員になれる保証はない。
新型コロナウイルスは今後の韓国の社会、経済をさらに暗くする可能性が高い。より多くの若者が恋愛、結婚、出産、就職、マイホーム、人間関係、夢等をあきらめる立場に置かれる可能性があるからである。文政権は若者の雇用を増やすために数多くの雇用対策を実施したものの、多くの仕事は臨時的・短期的仕事に偏っていた。若者の間では、このような臨時的・短期的な仕事は「ティッシュインターン」と呼ばれている。ティッシュのように使い捨てされるからである。