指数のパフォーマンスに関する議論に関しては、そもそもTOPIXに代表される時価加重平均型で多数の銘柄を組入れた指数に、少なくない問題があることは否定できない。また、ESG指数のパフォーマンスをTOPIXと比較して議論することも、特に、短期間のパフォーマンスのみを比較することも、中長期的なESGの本質から乖離した評価であって、適切ではない可能性が高い。運用に際してのベンチマークとしてTOPIXを用いることは一般的であるが、その限界性を十分に認識しておくべきだろう。特に、今般の東京証券取引所での市場区分見直しによって、TOPIXが最上位のプライム市場と切り離されたことを踏まえ、何が日本株のベンチマークとして用いる適切な市場インデックスなのか、改めての議論が必要になるのかもしれない。
ようやく東証プライム指数もリアルタイムでの算出を開始されるが、プライムに区分される銘柄数があまりにも多く、引続き継続されるTOPIXの算出方法も銘柄を除外するための暫定対措置が少なからず導入されているため、両者とも斬新さを欠き、必ずしも有用な存在ではなくなっているのではないか。米国株式に関するニュース報道ではダウ工業株30種平均やNASDAQが注目を集めるが、理論的に投資を検討する際に用いる市場インデックスとしては、S&P500などを利用されることが多い。どの指数が一般的に用いられるようになるかは、市場慣行によるものもあり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの大手機関投資家によって採用されるかどうかなどによって影響されることもある。
もしESG投資が広く一般的になるのであれば、ESG指数を株式投資のベンチマークとして用いる機関投資家が出現してもおかしくないのであるが、残念ながら総合的なESG指数といったものを考えることは難しい。例としてGPIFの採用するESG指数の一覧をみると、様々な指数があり、ジェンダーダイバーシティやカーボンエフィシェントなど特定領域に絞ったESG指数も少なくない。以前から主張しているように、E(環境)S(社会)G(ガバナンス)というESGの3要素が等価値であるとは考え難いし、投資に際してのアプローチとしても、ポジティブリストかネガティブリストかによって銘柄選定に対する姿勢が大きく異なるものである。
ESG指数に関しては、ESG投資の本質に鑑みると、四半期や1年といった短期間での評価を行うことは適切でないし、少なくとも数年単位での観察が必要である。可能であれば、より長い長期間を踏まえて上での議論が必要になるだろう。その間に、産業や技術の変化もあるものと思われるが、中長期的に追随して行くことが望ましい。
近年のESG投資の高まりにおいて、必ずしもESG指数のすべてが市場インデックスほどの上昇を示すことはなかったが、昨年度の後半を除いたコロナショック以降の株価上昇がグロース株主導であったことによる影響を考えられるのではないか。ESGを意識した投資信託や年金向けの運用においては、グロースバイアスのある銘柄を多く組み入れて来たようであるが、それはESG銘柄というラベルを有するものの、同時に、市場の上昇トレンドに追随するためのものではなかったろうか。本来的に企業がESG経営に注力することは、中長期的な観点からの取組みであり、バリュー株としての評価が高い方が適切なものかもしれない。かつて、企業によるCSR経営やフィランソロフィーなどが強く意識された時代は、経営余力のある企業がそれらの活動に取り組むとみられており、結果としてバリュー株で規模の大きな企業が評価される傾向にあった。ESG投資の流れが、単なる銘柄ピックアップのラベルになってはならないだろう。
昨年度からはバリュー株の強くなる局面も見られており、さまざまな相場局面におけるESG投資の効果を検証することで、将来に向けてESG投資を拡充することの意義を確認できるものと考えられる。ESG投資もESG経営も、長い時間軸の中において考えられるべきであり、早急にESGに対する評価を改める必要はないだろう。ウクライナ戦争の影響でロシアからのエネルギー輸入が停止・減少する中で、E(環境)に対する主張がトーンダウンするのではないかといった懸念も見られるが、中長期の観点から見れば、今回は一時的な価格上昇に過ぎず、緩やかであっても化石エネルギーから脱却し再生可能エネルギーへの依存を高める方向に押されることになるのだろう。
3――外部不経済を否定してこそのESG経営