コラム

じゃんけんの拡張-“下剋上”のある、じゃんけんはいかが?

2022年02月08日

(篠原 拓也) 保険計理

関連カテゴリ

じゃんけんについて、考えてみたことはあるだろうか?
 
「最初はグー、じゃんけんぽん!」などの掛け声を発しつつ、「石(グー)」、「鋏(チョキ)」、「紙(パー)」のうちから、各プレーヤーが、同時に好きな手を出す。それぞれが出した手の種類によって、プレーヤー間の「勝ち」、「負け」、「あいこ」が決まる。
 
大人から子どもまで、誰でも日常的にやっているのが、じゃんけんだ。だが、そこには奥深い一面もある。今回は、じゃんけんについて、少し、考えてみよう。

◇ フランス流じゃんけんには無意味な手がある

いま、最も行われているのは、グー、チョキ、パーのじゃんけんだ。だが、じゃんけんはそれだけかというと、そうとも限らない。
 
江戸時代には、「狐」、「猟師」、「庄屋」の3つのポーズを使ったじゃんけんがあった。「狐は猟師に鉄砲で撃たれ、猟師は庄屋に頭が上がらず、庄屋は狐に化かされる」という、三すくみをもとに行う「狐拳(きつねけん)」だ。
 
以下、勝ち負けの関係を、矢印を使って表すことにしよう。たとえば、「猟師は狐に勝つ」という関係は、「猟師 → 狐」と表す。
 
そうすると、狐拳の勝ち負けは、次のグラフのように表すことができる。
実際に狐拳をやる場合、プレーヤーは正座をして、ポーズをとる。狐は、両手の手のひらを頭の上に上げて相手に向けて示し、狐の耳を真似る。猟師は、鉄砲を構えるように両手の拳を胸の前に前後にずらして構える。庄屋は、膝の上に手を置く。狐拳は、芸妓のお座敷遊びの一種だったという。
 
他にも、平安時代には、蛞蝓(なめくじ)と蛙と蛇を使う「蟲拳(むしけん)」があった。人差し指が蛇、親指が蛙、小指が蛞蝓をあらわす。「蛙は蛇に丸呑みされ、蛞蝓は蛙に舌でとって食べられ、蛇は蛞蝓の粘液で溶かされる」という、三すくみがもとになっている。
 
蛙が蛇に負ける点と、蛞蝓が蛙に負ける点は理解できるとしても、蛇が蛞蝓に負ける点は、やや無理があるかもしれない。昔は、蛞蝓は身体から出る粘液で蛇を溶かす、と信じられていたようだ。
海外には、もっと風変わりなじゃんけんもある。フランスには、「石(グー)」、「鋏(チョキ)」、「紙(パー)」に、「壺(つぼ)」を加えた4つの手を使って行うじゃんけんがある。壺は、親指と人差し指で円をつくり、中指以下を人差し指に添える形だ。
 
この「フランス流じゃんけん」では、石と鋏は壺に入れられて負ける。一方、壺は紙にふたをされて負ける。勝ち負けのグラフは、つぎのようになる。
このじゃんけんは、出せる手が4種類あって、遊ぶ分には面白い。ただし、このフランス流じゃんけんには、無意味な手があるので注意が必要だ。

どういうことかというと、石と壺は、どちらも鋏に勝って、紙に負ける。石と壺の間では、壺が石に勝つ。したがって、どのようなケースでも、石を出す代わりに、壺を出したほうがよいことになる。つまり、石は勝ち負けという点では、出す意味のない「無意味な手」になっているわけだ。
 
もし、フランス流じゃんけんで、石を出す人がいたら、このことを理解していないか、または、理解したうえで敢えて奇をてらっている、ということになるだろう。

◇ 5つの手を使うじゃんけんは複雑だが面白い

実は、フランス流じゃんけんのように、4つの手を使って行うじゃんけんには、必ず無意味な手があることが示せる。(詳細は、付録1)
 
それでは、もう1つ手を加えて、5つの手で行う場合はどうか。5つの手のじゃんけんとして、「石(グー)」、「鋏(チョキ)」、「紙(パー)」に、「トカゲ」と、「スポック」を加えた、「トカゲスポックじゃんけん」がよく知られている。
 
トカゲは、さきほどの壺の形から親指を伸ばして下にして、寝かせたような形をつくる。スポックは、映画「スタートレック」に登場するヴァルカン人のスポック艦長(ヴァルカン人と地球人のハーフ)が敬礼するときに見せるポーズで、人差し指と中指、薬指と小指をそれぞれつけて、片手を上げる。スポックは、少し練習しておかないと、さっと出せないかもしれない。
 
トカゲとスポックの勝ち負けは、次のような関係になっている。

・トカゲは、紙とスポックに勝ち、石と鋏に負け。
・スポックは、石と鋏に勝ち、紙とトカゲに負け。
つまり、トカゲスポックじゃんけんでは、どの手も、他の2つの手には勝ち、2つの手には負け、ということになる。フランス流じゃんけんの石のような、無意味な手はない。複雑だが、出せる手が5種類あって、なかなか面白い。特に、スポックは、練習不足だと、出しにくいところに味がある。

◇ マレーシア流じゃんけんも無意味な手をなくすように修正できる

もう1つ、5つの手を使うじゃんけんで、面白いものがある。「板」、「水」、「鳥」、「石」、「拳銃」の手を使う「マレーシア流じゃんけん」だ。
 
板は、手のひらを下に向ける。水は、手のひらを上に向ける。鳥は、指先をすぼめた形。石は、手のひらを握る。拳銃は、親指と人差し指をのばし他の指は握る形だ。
 
それぞれの勝ち負けは、次のような関係になっている。

・板は、水と鳥に勝ち、石と拳銃に負け。
・水は、石と拳銃に勝ち、板と鳥に負け。
・鳥は、水に勝ち、板と石と拳銃に負け。
・石は、板と鳥に勝ち、水と拳銃に負け。
・拳銃は、板と鳥と石に勝ち、水に負け。
 
勝ち負けのグラフは、つぎのようになる。
実は、このマレーシア流じゃんけんでは、常に、鳥よりも板のほうがよい手となっている。また、石よりも拳銃のほうがよい手となっている。つまり、鳥と石は、無意味な手となっている。
 
そこで、少し、勝ち負けの関係を変えて、「修正版マレーシア流じゃんけん」をつくってみよう。

・板は、鳥と拳銃に勝ち、水と石に負け。
・水は、板と石と拳銃に勝ち、鳥に負け。
・鳥は、水に勝ち、板と石と拳銃に負け。
・石は、板と鳥に勝ち、水と拳銃に負け。
・拳銃は、鳥と石に勝ち、板と水に負け。
 
勝ち負けのグラフは、つぎのように修正される。(修正部分は、赤矢印)
このように修正すると、水は他の3つの手に勝って、1つの手に負ける。一方、鳥は、他の1つの手に勝って、3つの手に負ける。石、板、拳銃は、他の2つの手に勝って、2つの手に負ける。そして、修正前にあった鳥や石のような、無意味な手はなくなる。
 
実は、5つの手で行うじゃんけんのうち、無意味な手がないものは、トカゲスポックじゃんけんと、この修正版マレーシア流じゃんけんの、2つのグラフの形しかないことが示せる。(詳細は、付録2)
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)

関連カテゴリ・レポート