今回の理事会での金融政策方針は前回12月の決定内容の追認で大きな変更はなかった。
一方、理事会直前に公表された1月のインフレ率(速報値)が5.1%となり、今年に入ってドイツのVAT引き下げによるベース効果という一過性の物価押し上げ要因が剥落したにもかかわらず、12月の5.0%から伸び率が加速するというサプライズがあった。そのため、質疑応答はもめインフレリスクや金融引き締めに関する内容が多く見られた。
ECBの見解を示す材料としては、まず、冒頭説明のリスク評価に「インフレ見通しへのリスクは特に短期的には上方に傾いている」と明記された(12月はインフレリスクの評価は明記されていなかった)。
また、冒頭説明の結論について、前回12月は「中期的にインフレを2%で安定させるという目標には、APPによる純購入、フォワードガイダンス、といった金融緩和が引き続き必要である」として引き締めには慎重であることを意識させる文章だった。今回は「我々は引き続き今後のデータを注視し、中期的なインフレ見通しへの含意について丁寧に評価する」となっている。
いずれも、政策姿勢は金融引き締めに傾いていることをうかがわせる内容と言える
1。
今回、上方リスクについて明記されたインフレ率について、リスクは「特に短期的」と記載されたため、利上げのフォワードガイダンスと関係する23年や24年の見通しに関する質問が多く見られた。
前回12月の見通しでは、23年と24年のインフレ率が1.8%であり、2%に届いていないことから、金利のフォワードガイダンスを満たしていなかったが、2%を超えれば利上げが意識される。
冒頭説明文では、前回12月にはインフレ率が「予測期間にかけて2%目標を下回る水準に落ち着く」と見通しに沿った内容が明記されていた。今回はインフレ率について「今年中には低下する」と書かれているものの、どの程度まで低下するのかの水準感が示されていない。ラガルド総裁も質疑応答で明言を避けている。むしろ、データや3月の見通し次第という点を強調し、また12月の質疑応答で「22年中の利上げの可能性は低い」としていた発言内容を「条件付きの見解」として補足・修正している。
一方で、金融政策の正常化については、PEPPの終了→APPの減額→利上げ、という順序で実施する予定であることも強調している。APPの減額については、今年の購入予定がすでに提示されている。ラガルド総裁の発言を踏まえると、需給ギャップの縮小に1年程度は必要で、それと平仄を合わせる形で資産購入の減額を進めるというスケジュール感と見られるが、このAPPの減額ペースも次回3月に見直す予定であると質疑応答で言及している。
APPによる資産購入策は、PEPPの終了に伴う激変緩和措置の意味合いがあるため、3月までのPEPPの減額ペースにも注目が集まりそうだ。PEPPの減額ペースが加速すれば、APPの減額→利上げ、というスケジュールの前倒し観測も強まるだろう。
一方、12月に提示した見通しでもインフレ率は「かなり高い賃金上昇を考慮した」と説明しており、これが3月でどの程度上方修正されるかは未知数である。ただし、足もとでインフレ率が高止まりしていることから、インフレ率はさらなる上方修正が意識され、ECBの引き締め加速観測が強まりやすい状況と言えるだろう。
1 なお、声明文の政策スタンスについて、前回12月は、すべての手段を「いずれの方向」にも調整する、として引き締め方向にも配慮した記載に変更されていたが、今回はこの「いずれの方向」という表現が削除された。この理由については、質疑応答でラガルド総裁が「適切に(as appropriate)」という言葉で表現できているから、と説明している