人を運ぶ自動運転には、個人所有の自家用車(オーナーカー)に実装するパターンと、他人を有償で輸送するバス等(サービスカー)に実装するパターンの2種類がある。この他、モノを運ぶトラック等への実装もある。これらのうち、サービスカーについては、政府は成長戦略の中で「2020年目途に、公道で地域限定型の無人自動運転移動サービスを開始」するという目標を掲げてきた。2021年3月、これを実際に達成したのが、人口約1万8,000人の小さな町、福井県永平寺町である。同町志比に位置する曹洞宗大本山・永平寺と鉄道駅を結ぶ6kmの遊歩道が、その舞台となった。
自動運転のレベルは、ドライバーの関与の度合いや、走行空間が限定されているかどうかを軸に、5段階に分かれており、永平寺町で達成した、ドライバーが搭乗しない車内無人の自動運行はレベル3に相当する(図表1)。
同町は2017年3月に、経済産業省と国土交通省によるラストマイル型自動運転の実証実験の実施地域に選定され、以降、国立研究開発法人・産業技術総合研究所(以下、産総研)が中心となって、自動運転システムの試験走行を行ってきた。用いる車両はゴルフ場で利用されてきた電動カート、システムは、遠隔地で運行状況を監視・操作する「遠隔監視型」である(図表2)。
2020年12月には、自動運転が移動サービス(ZEN drive Pilot)として実用化され、町が運営主体となった。町が、地元のまちづくり会社に運行を委託している。当初は、ドライバーが搭乗して必要に応じて操作を行い、その様子を遠隔監視室で監視するレベル2の方式で、全区間(6km)で運行を始めた。2021年3月からは、うち国道や農道との交差部がない2km区間のみで、ドライバーが搭乗せずに、遠隔の監視員が監視するレベル3での運行を、休日のみ開始した。これは全国で初めての取組みとなった。平日は、従来通り、レベル2で全6kmを運行している。
永平寺には、毎年約50万人の観光客が訪れるため、ZEN drive Pilotも、地域住民に加えて、観光客の利用を見込んでいる。
永平寺町は、福井市のベッドタウンとして発達してきたが、人口減少と少子高齢化が進んでおり、地域の高齢者らの移動手段確保や、物流におけるドライバー不足の問題は、他の地域と同じように大きな課題となっている。同町は自動運転以外にも、2020年から、交通空白地帯である志比北、鳴鹿山鹿地区で、住民がドライバーとなって高齢者を送迎するデマンド型乗合タクシーの実用化を始めた。町と地域の郵便局が連携して、乗合タクシーで郵便物も運ぶ「貨客混載」を行ったり、郵便局の駐車場に移動販売車を誘致したりする実証実験にも取り組み、人とモノの新しい移動サービスを核に、地域を活性化する様々な取り組みを行っている。
自動運転に期待される役割の一つとして、「地方における高齢者等の移動手段」があるため、永平寺町における取組みの成果と課題を明らかにすることは、他の地方に導入していく際のシステムやスキームを検討する上で有効だと考えられる。
本対談では、同町の河合町長と、過疎地において自動運転を実用化し、持続させていくための課題と、他の移動サービスとも連携して地域を活性化していく将来構想などについて議論する。