消費者物価(全国21年8月)-コアCPI上昇率は13ヵ月ぶりにマイナス圏を脱する

2021年09月24日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.コアCPI上昇率は13ヵ月ぶりにマイナスを脱する

総務省が9月24日に公表した消費者物価指数によると、21年8月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.0%(7月:同▲0.2%)となり、20年7月以来、13ヵ月ぶりにマイナス圏を脱した。事前の市場予想(QUICK集計:0.0%、当社予想は▲0.1%)通りの結果であった。

携帯電話通信料の下落率は7月の前年比▲39.6%から同▲44.8%へと拡大したが、前年の「Go Toトラベル」による大幅下落の反動で宿泊料が前年比46.6%(7月:同17.3%)の大幅上昇となったことがコアCPIを大きく押し上げた。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比▲0.5%(7月:同▲0.6%)、総合は前年比▲0.4%(7月:同▲0.3%)となった。
コアCPIの内訳をみると、電気代(7月:前年比▲0.3%→8月:同0.9%)は1年11ヵ月ぶりに上昇に転じたが、ガス代(7月:前年比▲1.2%→8月:同▲1.5%)の下落幅が拡大し、ガソリン(7月:前年比19.6%→8月:同16.9%)、灯油(7月:前年比25.2%→8月:同20.0%)の上昇幅が縮小したことから、エネルギー価格の上昇率が7月の前年比5.8%から同5.5%へと鈍化した。

食料(生鮮食品を除く)は7月の前年比0.1%から同0.3%へと伸びを高めた。原材料価格の高騰を受けて食用油、マーガリン、菓子類などの上昇率が高まった。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが0.41%(7月:0.43%)、食料(生鮮食品を除く)が0.07%(7月:0.02%)、携帯電話通信料が▲1.28%(7月:同▲1.13%)、Go Toトラベルが0.28%(7月:同0.14%)、その他が0.52%(7月:0.34%)であった(Go Toトラベルは当研究所による試算値)。

2.上昇品目数の割合が50%を上回る

消費者物価指数の調査対象522品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、8月の上昇品目数は279品目(7月は258品目)、下落品目数は181品目(7月は207品目)となり、上昇品目数が前月から増加した。上昇品目数の割合は53.4%(7月は49.4%)、下落品目数の割合は34.7%(7月は39.7%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は18.8%(7月は9.8%)であった。

上昇品目数の割合は20年10月以来、8ヵ月ぶりに50%を上回った。8月は食料品(生鮮食品を除く)で下落から上昇に転じる品目が目立った。

3. コアCPI上昇率は9月にプラス転化

コアCPI上昇率は宿泊料の上昇ペース加速を主因として13ヵ月ぶりにマイナス圏を脱した。8月のエネルギー価格は上昇率が鈍化したが、9月以降は伸びが再加速し、コアCPI上昇率への寄与度は8月の0.41%から年末には1%程度まで高まることが見込まれる。
また、原材料価格上昇によるコスト増を転嫁する動きが広がることにより、食料(生鮮食品を除く)も伸びを高める可能性が高い。さらに、9月以降は前年の「Go Toトラベル」による宿泊料の大幅下落の反動による押し上げ幅が拡大する。

コアCPI上昇率は21年9月にプラスに転じ、年末にはゼロ%台半ばまで伸びを高めるだろう。「Go Toトラベル」の裏が出ることによる押し上げ効果が剥落する22年1月以降はいったん伸びが低下するが、携帯電話通信料の大幅下落の影響が一巡する22年度入り後には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで伸びを高めることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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